第六回
半時ほど前から降り出した雨はしとしとと絶え間なく地面に降り注いでいる。
手塚は自室で、帰宅中立ち寄った本屋で購入した海の向こうの恋物語を読んでいた。
「ふぅ」
重い溜息はいくら集中して書物を読もうとしても不二と忍足のことが気になってしまう自分への苛立ち。
何故こんなに不二のことが気になるのか。
自分は今まで不二の一番近くにいたと思っていた。
しかし不二には他校に、しかもアノ氷帝に親しげな友人?がいた。
それを知ったときの身体の熱は何だったのだろう。
嫉妬?何故、オレが?
堂々巡りで思考と結論、そして否定が脳内を駆け巡る。
これでは本に集中できるわけがない。
「はぁ〜」
二度目の溜息をついたとき、ケイタイに着信がきた。
相手は・・・「不二周助」
一瞬でるのを躊躇った。そして、そっとケイタイの電源を切った。
何故出なかったのか、電源を消したのか分からない。
脳ではない、ドコカが自分の身体を動かしているようだった。
ピンポ〜ン
急に玄関のチャイムが鳴り、心臓が口から出るほど驚いた。
まるでチープなホラー映画並みのタイミング。
父は残業、母は町内婦人会の旅行、祖父は昔の同僚と飲みに行っている。
つまり、自分以外にでる者が家にはいないのだ。
重い腰を上げて手塚はリビングにある電話で対応した。
「どちら様ですか?」
「夜分遅くすいません・・・不二ですが手塚・・・国光君いますか?」
心なしか震えた不二の声がした。
「不二!?」
不二が玄関先で話し終る前に手塚は玄関へ走り出していた。
不二は忍足とともに出かけたのではないのか?
何故こんな時間に?
さまざまな疑問が過ぎっていったがこの際それは二の次である。
不二が自分に逢いにきた。
そのことだけが手塚の行動を支配し始めた。
ガチャリと急いで玄関を開けると濡れ鼠になった不二が立っていた。
「不二・・・?」
ぽたり、ぽたりと顎先から雫をしたたらせて不二が手塚を見上げた。
その艶かしさに手塚の鼓動はドクンと強く鳴り始めた。
「手塚・・・!!」
不二は手塚の名前を呼ぶなりぎゅっと抱きついてきた。
ぱた、ぱたと不二からは雨の雫がしたたりおち、抱きつかれた手塚の服にもにもじわりと水分が染み込んでくる。
ドクン・・・ドクン・・・
ひとつ、またひとつと鼓動が早くなってくる。
そっと不二の方を見ると不二は手塚の背中に手を回して離そうとしない。
その表情は雨で濡れていた。
いや、雨のせいだけか?この目の赤さは涙で濡れた証拠ではないのか?
怯える子ウサギのような不二を手塚は引き離した。
このままでは自分は不二を・・・傷つけることになる。
そう、不二を己の欲望のさらしものにしてしまう。
そんな想いで引き離したのに・・・。引き離された不二は捨てられた猫のように手塚をじっと見つめていた。
じっと・・・心の底まで見抜いてしまいそうな目で。
そんな目に耐えられず手塚は目を逸らした。
「まず、寒いだろうから家に入れ。風呂と着替え、貸してやるから」
「ありがとう」
寒さでうっすら紫がかった不二の唇からポツリと微笑みが零れたことに手塚は気づかなかった・・・。
TO BE CONTINUED・・・
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