カンカンカンカン
地下にある研究室へ走ってくる音がコンクリートの反響で 研究室内へも響いてくる。
来た・・・か。
手にしていたコーヒーカップの中の残りわずかなコーヒーを飲み干して乾は傍らに立つ薫を椅子から見上げた。
「今、手塚が来るから。海堂は帰りなさい」
「でも乾先輩・・・」
何かを反論しようとした薫は言葉を途中で飲み込んだ。
反論しなかったのではない、反論できなかったのだ。
乾が 今まで見たこともないような、冷たく厳しい目をしていたからだ。
凍てつくような乾の目は真っ直ぐに研究室の入り口を見据えている。
招かねばならない客、手塚に向けられたその視線は身体の芯まで凍えてしまいそうなほど冷たく、残酷な色を帯びていた。
「今正面から出ると手塚とぶつかってしまうだろうから裏口から出なさい。
 いいね?絶対、帰りなさい」
有無を言わせぬ口調で半ば薫を裏口に押し込む形で乾は薫を研究室から追い出した。
これからしなければならないであろう 口論を薫に聞かせたくはなかった。
気が狂っているとしか思えない二人の会話を。



薫が研究室から追い出されたのとほぼ同時に手塚がドアを蹴破らんばかりの勢いで研究室に入ってきた。
「乾、不二をどこにやった」
普段から比較的キツイ手塚の視線が獣さながらの、今にも喉に噛み付かんばかりの瞳で乾を見た。
よほど急いできたのだろう。肩で息をし、普段の清潔感溢れる手塚の格好からは想像もできないほど衣類は乱れていた。
「早く言え、乾。不二はどこだ」
ゆらり、と足取りもおぼつかない様子で今まで寄りかかっていたドアから身を離し、乾の方へ歩みを進める。
「不二は、どこなんだ」
乾の白衣の胸倉を掴み、手塚が3度目の問いを乾に投げかける。
乾は絶対零度にも近い冷静な、手塚とは真逆の瞳で手塚を見下ろし、胸元を掴む手塚の手をゆっくりと振り払った。
「誤解しているようだから言っておこう、手塚」
淡々と、そして冷酷に近い口調で乾は言葉を紡ぎだす。
「オレが不二を連れて行ったんじゃない。不二が自ら此処に来たんだ」
「なっ・・・・・・」
「不二は自ら望んで此処に着たんだ」
「そんなわけない!!不二はこの場所を知らない!!不二は・・・
 不二はオレの家から1歩だって出たことがなかったんだぞ!!」
手塚の瞳に絶望、という名の暗い闇が広がってくる。そして今度は縋るように乾の白衣を掴んだ。
「不二は何処なんだ・・・!!」
ズル・・・と白衣を掴んだ手が滑り落ち、手塚自身の身体も床へと滑り堕ち、床へと座り込んでしまった。
「手塚・・・」
手塚のつむじを見下ろしながら乾は一言、何よりも冷たくそして残酷な真実という名のとどめを手塚に落とした。








「不二は死んだよ、手塚」










TO BE CONTINUED・・・






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