はしゃぎすぎてしまったせいなのか、
自ら作った乾汁入りシチューの毒気にやられたのか
食後直ぐに眠ってしまった不二を抱き上げて寝室に連れて行き そっと額にキスをしてドアを静かに閉めた。居間では乾がワインを開けて待っていた。
「不二、寝たのか?」
ワイングラス越しに乾が聞いてきた。
「あぁ、疲れたんだろう」
かくいう自分も妙な乾汁入りシチューを飲まされたりと疲れてはいたが
これは行楽地は行った後のような なんだか心地よい疲れだった。
いつも背負っているような疲れとは質の違う、
一旦眠りに入れば朝まで目が覚めない、悪夢で跳ね起きるようなこともない、
そんな 疲れをほどよく感じながら 乾の開けたワインを自分のグラスに注ぎつつソファに腰掛けた。
「激しいな、手塚」
ワインの香りと味に酔おうと目を閉じてグラスを口元に運んだとき乾が出し抜けに言った 一言でオレはあやうくワインを吹き出しそうになった。
「な、何を言ってるんだ乾!」
自分らしくもなく焦って顔が赤くなっているのを感じた。
乾はまたしてもにやにやと首筋を指差して意味深げにしている。
明らかにさっき台所にいたときに不二の首筋に見つけたオレのつけたキスマークのことを言っている。
乾が毎回毎回我が家に来るたびに弱みを握られている気がする・・・。
またか・・・とげんなりした顔で乾を見るとまだにやにや笑っている。
確かに不二の首筋についた痣はオレが昨夜つけたものだ。


白い不二の首筋をそっと指でなぞり、舌を這わせ、痕を残していった。
不二がオレのものだという刻印を刻むかのように幾つも幾つも・・・。
見えているところは首筋だけだが、
鎖骨、胸元、脇腹、
ありとあらゆるところに罪人の つけた印が不二には残っている。
オレの欲望だけでつけた汚らわしい傷跡。
穢れたキスマーク。
その傷で不二を埋め尽くせば不二もオレのところへ堕ちてきてくれるかもしれない、
と甘い期待を抱いて無心に不二を 毎夜抱く。
天使を堕とすために、オレは、罪人はさらなる罪に手を染め、
もはや人とはいえないような自分に自嘲を重ねる。
もはや、獣だな、と。
すでに人としての罪の意識は薄れ、ただただ不二を抱く獣。
以前は真っ赤に染まった手が今や欲望のカタマリで真っ黒に染まっている気すらする。
そんな真っ黒の手に触れられ、穢され、
犯されても今なお不二は美しく純白の 気を纏いオレの罪を浄化させようと
毎晩オレの腰の上で艶めかしく踊る天使。
オレの薄汚れた体液を全身に浴びせられながらも 少しも穢れることのない・・・不二・・・。
不二を穢して堕としてやろうと思う反面、いつまでも真っ白でいてほしいと思うが故に 苦悩し、
また不二を抱くことで救われようとする。
欲望と懺悔の悪循環。
ハマったら心地よくて二度と抜け出せない、永遠のループ。


「ソンなトコまで元気ならそろそろ覚悟を決めてくれないか?」
にやにや笑いをやめた乾が真剣な目つきでオレを見据えた。
口では冗談を言っているが目には冗談の欠片もない。
「不二をウチに返してくれ」
意味が痛いほど分かっていたが分からないふりをしてみた
「ウチ?オマエの家には海堂がいるだろう、乾」
とってつけたような笑顔も見せてみた。
けれどやはり乾は出し抜けない。
「家、じゃない。研究所だ。分かっててボケるな」
凍てつくような乾の目が刺すような視線でオレを非難する。
笑いを生み出せる状況ではないのだ、と。
乾はひとつ溜息をつき、目を伏せ ゆっくりと口を開いた。







「不二はもう一ヶ月もつかどうかも分からない」







乾のその一言はオレを、空気を、全てを凍らせた。





TO BE CONTINUED・・・



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