ドイツへ旅立つ朝のことだった。
別れを惜しむ恋人同士の如く、日本での最後の夜を二人で過ごし、お互いがお互いを待っていようと誓いあった。
最後に不二の顔を見るのが辛くて、何時の飛行機かは教えなかった。
無論、不二も「辛くなるから」と、自分の寝ている間に行ってくれ、と最後に口づけを交わした。
「幸運のお守りだから」
そう言って、そっと重ねられた唇。最後の、キス。


不二が事故にあったのはその数時間後。
逆にオレが出て行く前に家から出ようとしていたのだろう。
目が覚めて、まだ温かかったベッドの隣に不二がいないのに気づき、急いで外へ飛び出し、数十メートル先を歩く不二の名を大声で呼び、不二が振り返った瞬間だった。
いわゆる、出会い頭の事故。運転手の不注意。
欧羅巴仕様の大きく、高級感溢れる車が不二の華奢な身体を宙へと浮かせ、次の瞬間道路へとマネキン人形が堕ちてくるようにゆうるりと、しかし強烈にアスファルトへと叩きつけた。



「不二!!」
宙を舞った不二の身体が地面に叩きつけられた瞬間、不二の元へと駆け寄った。
「不二!!しっかりしろ不二!!」
口の端から鮮血を一筋垂らしながら不二が手を差し伸べる。
「今医者が来る、しっかりしろ不二!!」
不二の頭をヒザに置き、必死に話しかけていた。今、不二が目を閉じてしまったらもう永久に目が開かないのではないかという恐怖に覆われた。
ゆっくりと不二の口が開き、そしていつもの微笑みを浮かべようと口元を緩ませた
「ごめんね・・・手塚」
そっと頬に触れた掌にはべっとりと鮮血がついており、オレの頬は不二の鮮血で染められていった。
「ごめんね・・・」
一言、そう言って不二は一筋の涙を流し、瞳を閉じた。

救急車が向かってくる音が聞こえる。
オレは息絶えた不二を膝の上に置き、ぼんやりと外界を眺めるように救急車が到着するのを眺めた。
「不二、救急車が来たぞ」
ゆらり、と血まみれの格好で救急車の前に立ち、不二が運ばれるのを見ていた。









オレの記憶は此処から先は、ない。






TO BE CONTINUED・・・





 BACK →