「これで本当にいいのか、手塚・・・」
「いいんだ・・・。すまない、乾」
「いや、お前がいいならいいんだが・・・」
研究室から去ってゆく手塚の背中を不安げな視線で乾は見送った。
そして一つ約束を結んだ。
「一年だけだぞ」
手塚は答えず、乾へ少し首を傾ける程度に振り向いた。
両腕に大きな荷物、いや物体を抱えて。
「一年、だけだぞ・・・」
手塚の去った研究室で乾は立ちすくみ、呟きを零し、手にした煙草に火をつけた。
「あんなことさえなければな・・・」
乾の呟きは研究室に煙とともに消え入った。





imitation






ぼくが再び目を覚ましたのは日の光がキラキラとさしこむ日当たりのよい部屋で、
窓から差し込む朝日がもう白ではなく黄色がかってきていた。
「起きたか?」
寝起きのぼくの顔を覗いてきたのはシャープな印象の眼鏡をかけた男だ。
端整な顔だちをしていて、よく見るとむしろ美人であるが彼の性格の厳しさを現しているのであろう目の強さが彼から綺麗というイメージを払拭している。
そういや彼は誰?
「何だ?まだ寝ぼけてるのか?不二」
手を伸ばしてぼくの頭をそっと撫でた彼の瞳は優しさに満ちている。
そういや彼はぼくのことをフジって呼んだ。
じゃぁ、ぼくはフジっていうのか。
きょとんとした目で彼を見ていると苦笑いをした彼がコーヒーカップを差し出して、
ぼくに差し出した。
「目が覚める。それからゆっくり考えればいい」
そういうと彼は部屋から出て行った。
ねぇ、キミは誰?
彼が出て行ったドアを3分程見つめていただろうか。
手の中にあるコーヒーが程よくさまってきたのを察知し、マグカップに口をつけた。
「にがいっ・・・」
あまりの苦さに眉間に皺を寄せ、一気に喉に流し込む。
「こんなののんでるからかれはみけんにシワがよるんだよ・・・」
自分で言った一言に驚いた。
何故自分は名もしらない彼のことを知っている?
マグカップを握る手が微かに震えだした。
何かが怖い。
そう本能が感じ取っていた。


彼は誰なの?


さっき彼が出て行ったドアに近づいてそっとノブを回してみる。
鍵はかかっていない。
カチャリとドアを開けるとさっきの眼鏡の彼が誰かと電話をしていた。
「乾か?不二、目を覚ましたぞ。あぁ、まだ記憶は錯乱しているみたいだがな。
 いや、心配ない。あぁ。じゃあ、また」
ガチャリと受話器を彼が置くと同時にぼくをふりむいたのでぼくは隠れる間もなく彼にみつかってしまった。別に部屋から出るなとも言われて無い、
むしろ起きろと言われたようなものなのに何故か気まずくて
ドアに半分も隠れてイタズラがバレたときの小さな子どものように彼をドアの端から見つめた。
そんなぼくの姿を見て、彼はふっと目を細めた。
「なにしてるんだ、不二。朝食、食べないのか?」
その笑顔がとても優しく、
温かいものだったから素直にコクリと頷き彼の後についていきリビングに向かった。
リビングは続き部屋になっているキッチンからする焼きたてのパンの香りでいっぱいで、
コーヒーメーカーから先ほど飲まされたコーヒーとはまた違った香りのコーヒーが淹れられていた。
「ねぇ、さっきのコーヒーにがかったんだけど」
彼が着ているシャツの裾をクイっとひっぱりちょっと抗議してみる。
「でも、目は覚めただろう?」
不敵に彼は微笑み、ぼくを見下ろした。
なんかムカつく。でもこの感じ、嫌いじゃない。
むしろ心地よいような・・・。
「まぁね」
ぼくが椅子に座ろうとしたら彼はそっと椅子をひいて、朝食を出してくれた。
「不二は洋食派だったからな、今日はパンにしたぞ」
コトリコトリと真っ白い皿に盛り付けられたパン、サラダ、タマゴ、スープにコーヒーがキッチンテーブルの上に並べられていく。でもアレ?サラダに・・・
「トマトはないの?」
見上げた彼の目が一度揺れ、宙を泳いだ。苦笑いに近い笑みを浮かべ
「トマトは苦手なんだ」
と自分も向かい側の椅子に座り朝食に手をつけ始めた。
カチャカチャと食器のぶつかりあう音だけがする二人きりのキッチンテーブル。
彼が作ったであろうハムエッグを食べながらぼくは重要なことを思い出した。



「ねぇ、キミはだれ?」




TO BE CONTINUED・・・



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