夢の彼方



人々がせわしなく行き交う。
国外へ出るもの、日本へ帰ってきたもの、旅行へ行くもの、仕事へいくもの。
いろいろな人がミクスチャァされた国際空港。
その中に二人の小さな子どの影がある。
「オレは跡部景吾だ。仲良くしてやるぞ」
「僕は不二周助。よろしくね」




朝日がカーテンの隙間から入り込み、眠っていた跡部へきらきらと光の破片を降り注ぐ。
「朝か・・・」
眩しそうに目を潜めぼんやりと天井を見つめ、今見た夢へと思いを馳せた。
懐かしい夢をみたものだ・・・。
あれは不二周助と初めて逢ったシーン。
母と共にイギリスから3ヶ月ぶりに帰ってくる父を迎えに行き、
父がむこう、イギリスで世話になったという人の息子として不二を母は紹介してくれたのだ。
当時のオレは年齢にそぐわないプライドと態度で友人といえるヤツはいないに等しかったため、
母も心配し、気をつかってくれたのだ。
「もう十年も前のことか・・・」
あれは5歳。お互いまだ幼く子猫のようにじゃれあっていた頃。
その2年後、父は自ら会社を興し不二の父と関わることもなくなり、
オレと不二は遊ぶこともなくなりそのまま現在に至っている。
お互いが仲良かったことなど過去の産物、記憶の片隅の小さな思い出程度のものとしか残っていない。
それじゃぁ、何故こんな夢を見た?それは今日が氷帝対青学の試合の日だからだけではないだろう。
そう、小さなオレはたしかに当時不二周助に恋をしていた・・・。


ぽん・・・ぽん・・・
不二がベンチに座りながら床にテニスボールを弾ませている。
アレは不二なりの精神統一の1つだ。昔から変わらない。
下を向いてボールと床をじっと見つめる。サラリと薄茶の髪が流れてきて不二の輪郭を奪う。
微かな隙間から窺える表情は幼いときと変わらず透き通るようだった。
「よう、不二」
ゆらり、と流水のような動きでこちらを見上げた。
「あぁ、跡部くん。久しぶり・・・かな?」
「まぁな」
相変わらずとぼけたフリしやがる。
コイツのそういうところが気に入ってたんだがな。
ぽん・・・ぽん・・・と不二はまたボールを弾ませ始めた。
「あぁ、そういえばね今日跡部くんの夢を見たよ」
目はボールを見たまま、オレに話しかけるわけでもなく不二は言葉を零していった。
「初めて逢った日?空港の。その夢見たよ」
心臓が1つ速い鼓動を打ち始めたが、表情にはださなかった、だせなかった。
「ふ〜ん。まぁ、試合せいぜい頑張れよ」
「ありがとう」
棒読みのお礼を置き去りにし不二はベンチを後にした。
不二と目線を合わせたのはほんの一瞬。
それでもあの蒼い瞳には囚われる。
オレが恋した幼い不二と同じ、いやより一層輝きを増し、魅力を増した瞳。
どこか手負いの感じがするのは手塚のせいだろう。
オレがかつていた場所に今は手塚がいる。
嫉妬を感じないといえば嘘になる。
だからといってオレと不二の関係はすでに過去のものとなっており今更ソノ場所に戻りたいなど思わない。
あの目さえオレの中に残っていればそれでいいのだ。今は。
それを知ってて不二はオレと一瞬しか目をあわせなかったのかもしれない。
もう、キミに注ぐ分の視線はないよ、と。




「オレ、大きくなったら強いテニスプレイヤーになって、
ウィンブルドンで優勝とかするんだぜ。
そうしたら不二のこと迎えにいってやるよ。それで二人で暮らそうぜ?」
「楽しみにしてるね」
これは二人の最後の会話。今だ跡部の夢の彼方に眠っている記憶。
夢の彼方でキミが思い出してくれるのを待つ。待っているのは不二か跡部か。
夢に囚われキミを想う。囚われたのはオレの方。




「氷帝学園対青春学園の試合を始めます」
ネットの向こうに不二は伏せ目がちに立っていた



END



BACK