たわいのない日常なんてすぐに消えてしまうものだから・・・
何時からそんなことを考え始めたのなんかも分からなくなるくらい
僕は長いことその考えに囚われていたような気がするよ。



雪降る日の思い出



「アニキ!!雪が降ってる!」
ハラハラと花弁が散るように雪が降る。
扇状六花、広幅六花、樹枝状六花が我先に地上に舞い降りる。
醜く汚れた大地を純白の清浄さで埋め尽くして。
雪が降るってるのをみるのは初めてじゃないのに毎年裕太は雪が降ると決まってはしゃいで
こっちを見て笑顔を振りまいていた。
「犬みたいなコね」
とは姉さんの言葉だが確かにそのはしゃぎっぷりは犬以上のものがあった気がする。



今年もまた、雪が降った。
ヒラヒラと舞い降りるそれは僕の心を懐かしい日々に引き戻す。
仔犬のようにはしゃいでいた弟の姿はもうリビングのソファにはない。



「オレは聖ルドルフに行く」
或る初夏の突然の言葉。
いろいろ言うべき言葉はあったのに喉がつっかえて言葉が音にならなかった。
「何時から?」
絞り出た音は愛想のないそれのみ。
「明日から」



あれからもう、半年が経つ。
季節は巡り、もうあれほど眩しかった太陽も弱々しい光を放つに過ぎなくなった。
裕太がいないリビングの風景にも慣れてきた。
ぽつりと不自然に開いた裕太お気に入りのソファの中央。
誰も座ることのない空席。




そして今日も雪が降る。
思い出が詰まった雪が今年も地上の穢れを一掃しようと舞う。
僕の心も綺麗にしてくれればいいのに。



「不二?どうしたの?」
一緒に帰ってきた英二が心配そうに首を傾げて顔を覗き込む。
無理矢理に作り出した不自然なまでの微笑みを返し
「なんでもないよ」
そう言い放つのが精一杯の努力。
「ならいいけど。じゃあまたね」
玄関前で彼と別れを告げ、仮面のようにへばりついた笑顔で英二が角を曲がるまで見送る。



「アニキ!!雪が降ってる!!」
リビングに入るなり聞こえた仔犬のような声。
いつもは寂しく冷たくなっているソファの中央に彼は当然のように座ってこちらに手を振っていた。
「おかえり、裕太」
「アニキもな」
作り笑いじゃない笑顔をしたのは何時以来だろう。




END


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