virgin mary



時計の針は深夜2時を指した。
俺はベッドに腰掛けて深いため息をついた。
ひどい後悔の念が頭をもたげる。
クイと少し首を動かしてベッドを見るとそこには裸体の不二周助が眠っている。
閉ざされたまぶたからは一滴の涙がこぼれていた。



 俺 は 不 二 周 助 を 抱 い た の だ  。



決して合意のものとはいえなかった。
俺の背中には不二が抵抗してつけた引っ掻き傷いくつかつけられているのだろう。
かすかな痛みが時折走った。
何故そんなことをしてしまったのか自分でも分からなかった。
ただ、気がついたときには不二の体に触れ、組み敷いていた。
不二の瞳、声、手、口、足、不二周助をかたどる全てのものが俺を激情にからせた。
甘い吐息も少し早い心音も全てこの手に入れたいと思った。
しかし、本当に今、我にかえると自分は何ということを、とんでもないことをしてしまったのだという想いで
自分が押しつぶされそうになる。
この3年間、俺の手、いやそれ以外からも汚されたくない、汚したくないと守ってきたものを自らの手で、
しかも最も卑劣な方法で汚してしまったのだと思うと耐えられなかった。


「ん・・・?手塚・・・?」
不二が目を覚ましたようだが、もう俺には不二の目を見て話す資格などない。
天使を堕とした罪人のような気持ちで、不二の方を振り向くことすらできなかった。
「スマン・・・不二・・・。」
「手塚?」
「本当にすまない・・・許してくれ・・・。」
不二に背中ごしに謝るのがやっとだった。
きっと不二から烈火のごとき罵声をあびせられるのだと思っていたそのとき、
ふわりとヒナ鳥を親鳥が翼で覆うように不二が俺に抱きついてきた。
「謝られるようなことなんてされてないよ、僕。」
「しかし!!」
ふり向いて見た不二は優しい微笑みを浮かべ、俺の瞳を直視していた。
「手塚が謝ることなんて何一つありやしない。僕は自分から望んで手塚に抱かれたんだ。」
「不二・・・」
「手塚は僕を傷つけたとか思ってるかもしれないけどそんなことないんだよ。だから、もう泣かないで。」
「え・・・?」
不二に言われ、自分の頬に触れるまで俺は自分が泣いていることにさえ気づかなかった。
たしかに俺の頬は一筋の涙で濡れていた。
「さあ涙をふいて。僕まで悲しくなっちゃうよ。」
「不二、俺を許せるのか?無理矢理お前を抱くような俺を。」
顔をあげて不二を見ると不二はふわっとやわらかい微笑みを浮かべているだけだった。
それはまるで聖母マリアの慈愛に満ちた微笑。
不二のその笑みが全てを、俺の汚い心までも浄化してくれているようでまた涙があふれてきた。
「手塚、もう泣かないで・・・安心して・・・。」
不二が子守唄のようにささやく。俺は安心して不二に体をまかせ、まぶたを閉じた。

時計の針は深夜3時を指した。
真夜中でも聖母マリアのまわりはほのかな明かりにつつまれているようだった。
そんなぬくもりを互いに感じながら俺と不二は意識を手放し、2人で深く夢の世界へと堕ちていった。



END



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