泡沫




「なあ跡部オマエ、小学校の低学年のころの冬休みに京都に来よったことないか?」
部活後の氷帝庭球部部室。
だらだらと意味もなく居残っていた忍足が部長としての雑用を片付けるために居残っていた跡部に
おもむろに話しかけた。
「はあ?京都?」
「そうや、京都。オレの実家。」
あさっての方向を見ながらも忍足は跡部の「うぜえ」と言わんばかりの返答に相槌を返していく。
「そんなトコ行くかよ。オレは昔から冬は母様の実家に行くついでにギリシア行ってるんだよ。
なんで日本、しかも冬にクソ寒い京都に行ってなきゃいけねえんだよ」
「そうだよな・・・」
ぼんやりと窓から差し込む夕陽を見つめ、忍足は心此処に在らず、と言った感じの返答をする。
「そんなくだらねえことこのオレに聞く為に残ってるなら邪魔だ。はやく帰れ」
グサグサと刺さるような跡部の言葉ももう忍足の耳には入っていない。
彼の心は今、あの京都のあの冬の想い出へと浮遊を始めていた。




陽がさせば透き通って輝く日本人とは思えない薄茶の髪。
紫がかった蒼い、硝子玉のような瞳。
町に降る雪よりも真っ白に見えた肌。




記憶の隅に残る雪に溶け込み、そのままいなくなってしまうような儚い美しさ。
あの少年は誰だったのだろう。
跡部でないとすると・・・?




瞳を閉じれば十年近く昔だというのにあの雪の中の少年の姿が鮮明に浮かぶ。
京都の町並みに馴染まないその風体で、しかし雪には馴染む、というより
海の泡のようにその中に消えてゆきそうな姿で自分を待つその少年。




彼の名前はなんといったのやろうか。
十年、考え続け未だに答えがでてこない。
記憶に鮮明すぎるほど残り、未だ自分の心を掴んで離さないあの少年。









「忍足くん」
彼が自分を呼んだ声が耳から離れたことはない。



























「不二〜!!修学旅行先決まったって知ってた?」
青学、3年6組の教室。
職員室呼び出しから帰ってきた英二が反省の色など1ミリも見せずに教室に駆け込んできた。
「え?何処?」
興味がなさそうで、しかし英二の興奮ぷりに合わせて不二が会話に乗る。
「今年から京都だって!オレ行ったことないからすげえ楽しみ!」
「京都?」
不二が眉間に皺を寄せていぶかしむような表情を作る。
「何?不二京都じゃ不満なの?」
英二は想像していた不二の笑顔が見れなかったことを残念がり、声のトーンを下げ、
それこそ教師に怒られたときすべきような顔をしてみせた。
「ううん、違う、京都は好きだけど行ったことがあるんだ」
「へえ何時?」
「小学校1年か2年の冬休み」
そう、そこで誰か大切な人と出逢った気がするんだ。






闇色の髪と瞳の。
同じ年のわりに落ち着いた風体の。
誰かと。













END








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