聖者の行進
「宍戸さん・・・」
おもむろに長太郎が目の前に跪き、手の甲に触れるだけの口づけを堕とした。
ふわり、とやわらかい羽根が堕ちてくるようにされた其れ。
少し震えた唇で長太郎はまた1つ、また1つと手の甲に羽根を堕とす。
上から見た長太郎は、銀髪が夕陽の光に照らされ黄金色の輝きを放ち、
とても綺麗だったのを覚えている。
伏せられた瞳を縁取る睫毛も、全てが輝き、その空間だけがとても神聖なものに思われて。
急に目の前に跪き、そっと硝子の置物を扱うように宍戸さんの手を取る。
そしてその手の甲に、先日つけた創にそっと唇を寄せる。
「長太郎・・・?」
訝しげそうに眺める宍戸さんを1度だけ見上げ、また幾度となく愛しい手の甲に口付ける。
見上げた宍戸さんは訝しげそうに首を傾げ、それでも全てのものに許しを与えるような
瞳でオレを見ていた。
久方ぶりに見る下目使いの宍戸さんは格段に美しく、
昨日自分の欲望で只管に穢し、堕とした彼の姿は何処にも見当たらなかった。
聖者の手に、許しの口づけを請おう。
跪き、己の罪を聖者に吐露し、彼の許しを。
「宍戸さん・・・」
幾度となく掌に口づけを堕とした後、その大きな掌でオレの手を包み、そっと頬を寄せた。
「許して下さい・・・」
許しを請いても未だ己の欲望は止まることをしらず、ただひたすらに転がり堕ちる。
それでも彼はいつもの厳しく未来を、自分を見つめた瞳を上げ応えた。
「ああ・・・」
視線を外し、高く高く、かつて己のいた場所を偲ぶかのように
虚空を見つめ呟いた。
天使の鳴らす、マーチの音が聞こえる。
流した血のような緋色の陽を浴び、聖者は帰路へ着く。
何処へ行く宛もなく、二人の聖者は帰路へ着く。
END
BACK