溺れる魚







きっとオレは長太郎に溺れている。







「じゃあ、宍戸さん、俺、学校に行ってくるんで留守番お願いしますね」
バタン
後ろ手にドアを閉め、長太郎は学校へと向かった。
オレが学校に行かなくなり、長太郎の家に転がり込んで3日が経つ。
長太郎はオレに何一つ言わなかった。
学校へ行けとも、部活に出ろ、とも。
何一つ文句も言わず転がり込んできたオレに普通に、いや寧ろ過剰なまでに優しく接する。
「ああ」
気のない返事を返し、オレは部屋の主のいなくなったベッドでごろりと寝返りをうつ。
その反動で右手の包帯が緩んだ。









包帯、か・・・










「また、怪我しちゃいましたね」
眉間に皺を寄せ、長太郎が呟く。
「別にオマエが痛いわけじゃないからいいだろう」
心から発した言葉ではなかったが、焦っていたオレには他人の優しさはただ煩わしいものでしかなかった。
「またそんなこと言って・・・・!!!」
「だって、本当のことだろう?」
そう言い放つと長太郎は少し寂しそうに目を伏せる。
「でも・・・・・・」
ジャージの裾を少し握りながら長太郎は言いづらそうにオレを見る。


   俺  宍  戸 さ  ん  の  こ  と  大  好  き  だ  か  ら


そう呟き、ベンチに座るオレの前に跪いた。
大好きだから、見ていられないのだ、と。
そういいながらその日できた脚の痣に口づけし、そしてその長い指を器用に動かしながら
オレの脚に包帯を巻きつけていった。
あまりに自然に口にされた告白の言葉を前に唖然としているオレを見上げ、長太郎はいつもと変わらぬ微笑をむける。
「好きだからってどうこうしようなんて思ってませんから」
だから、好きでいさせて下さい、と。












家に帰れば宍戸さんが部屋にいる。
1日中俺の部屋にいて、帰ってきたら一緒に特訓をして。
宍戸さんが今この世で関わりを持っているのは俺たった独りで。
そう考えたらゾクリ、と寒気がした。
たった独りの、そう今の宍戸さんは俺だけのもので。
彼を独占している。
そう考えるのは今必死に頑張っている宍戸さんに対して失礼だとは思ったけれども
その現状を悦ばずにはいられない自分がいて。
宍戸さんを独り占めしている、と。浅ましい考えが脳を独占して離れない。



「ただいま、宍戸さん」
「おう」
愛想もなにもない返事が返ってくる。
でも宍戸さんがこの部屋に、俺の部屋にいるだけで。
悪寒にも似た心地よさが身体の芯から湧き上がってくる。
出来ればずっと此の儘、宍戸さんを拘束していられれば、と。















きっと俺は宍戸さんに溺れている。
















END











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