TRAP
「不二先輩、手塚部長と付き合ってるって本当っすか?」
唐突にナマイキルーキーからでた言葉にドキリとし、
思わず手にしていたポカリを落とすところだった。
「何のことかな、越前君?」
にこりといつもと変わらない笑みを見せ付けてみる。
何一つ動揺などしていないのだと言わんばかりに。
「ふ〜ん・・・」
さもありげな相槌をうつ彼の目は僕の内心の動揺を見抜いているようで微かに腹が立つ。
あまりに手塚に似ている。
そんな印象を持たされる越前に何故か腹が立つ。
手塚に似ている、それだけが彼への印象であり、彼への嫌悪感の根源であった。
「俺って手塚部長に似てません?」
またしても僕の心を読むかのような発言。
確かに似てる、似てるんだけど・・・
「どうして?」
似ていると口にだせば認めたくないモノまで認めてしまう。
だから逆に問い詰めてみた。
彼の中に手塚とは違うなにかを見出すために。
「テニスプレイのだって似てるでしょう?オールラウンダーのあたりとか?」
「他には?」
冷静を保つため、冷酷に近い状況を装って話しかける。
どうして?他には?たずねなくても知っている。
彼と手塚はプレイスタイルとかそんなレベルで似てるんじゃない。
身に纏うオーラが似ている。
それだけであり、それが最大の理由。
「わかんないっすよ。なんでそんなにきいてくるんスか?」
「なんとなく。越前君こそなんでそんなこと言い出したのかな?」
にっこり微笑んで見せた。
余裕があるように見せたいから。
オマエなんか相手にしてあげない、それくらいの余裕を持ちたかったから。
見せなきゃ負けるような気がした。
彼の中に巣食う手塚と同種の、いや手塚のオーラに。
はっきり言って怖かった。
これまで二年間、手塚と二人過ごしてきた時間をこのコに奪われてしまうのではないかと。
奪われるのは手塚ではなく、僕の心。
越前の中に潜むナニかが僕を引きずり込む。それが、怖い。
そして何より、彼が無意識に引きずりこんでいるのではなく計画的に僕をひきずりこもうとしている節が見え隠れする瞬間がある。
そんなときは吐き気がする程彼が嫌いになる。
「不二先輩、気づいてて言ってるんですか?それとも天然?」
「何のこと?」
気づかないフリをして微笑む。罠を張られるのは趣味じゃない。
罠にかかることなんて惨めな真似したくない。
「だ〜か〜ら〜・・・」
溜息とともに一歩一歩越前が近づいてくる。
全身に寒気が走った。越前の目が、怖い。
手塚にはない、獣の目をしている。
「不二先輩、手塚先輩に抱かれたことないんでしょ?俺が代わりに抱いてやるって話」
気づいたときには遅かった。
罠は最初からはられていたのだ。
越前は入り口を背に立っている。
窓は閉ざされている。
大声を出して、手塚の助けを呼ぶことは可能だが呼んだ瞬間、
越前に組みしかれ手塚に哀れな自らを晒し 誤解を植えつけ、蔑まれるだろう。
手塚は高潔な人だから、他人に汚された僕を目の当たりにした瞬間僕への感情は180度変わる。
汚 ら わ し い、と。
小刻みに震えが走る。
ジャージのファスナーを強く握ってうさぎのように怯え、あとずさることしかできない自分に腹が立つ。
逃げだすには 彼の瞳は凶暴すぎた。
「不二先輩・・・」
そっと越前が手を伸ばし、僕の耳元の髪に触れ囁いた。
「そんなに怯えないでよ」
ゆっくりと背伸びをし彼は僕の唇に自らの唇を運んできた。
「っふっ・・・」
あまりに濃厚な彼の口づけに思わず声が出た。
彼はニヤリと再び獣の瞳を露にし、僕の素肌に喰いついてきた。
「いやだっ・・・」
自分より華奢な越前を自分の上からどかすことができなかった。
僕が非力だったわけじゃない。
身体が越前を、越前の中に巣食う手塚を求めていたから。
抵抗しながらも身体は熱を帯び、越前の刻むリズムに翻弄されていく。
そんな僕の姿に越前はまた笑みを零す。
小悪魔的微笑を。
「俺と手塚部長って似てるでしょう?」
熱にうかされ快感と恥ずかしさで涙目の僕の瞳を覗きながら越前は笑った。
「ん・・・っ・・・に、似てないよっ」
必死に快楽に溺れまいと抵抗しながら越前を睨みつける。
それが僕の心の精一杯。
身体の方はもう、彼に従順だ。
「手塚は僕にこんなことしないっ」
手塚は僕に触れることはあっても抱くことはなかった。
まして力づくだなんて・・・。
「じゃぁ、本当は不二先輩は手塚部長に愛されてなかったんじゃないの?」
全てを見透かす瞳で越前は言い放った。
そう、僕もそれは感じていた。だから認めたくなかった。
口に出したくなかった。
手塚は僕を抱かない。
手塚は僕を愛していない。
愛 シ テ イ ナ イ
すーっと音もなく左目から涙が零れた。
今まで認めたくなかった事実を今コノ瞬間突きつけられた。
認めたら僕が僕でなくなる、そんな事実を。
「俺と手塚部長、似てないんでしょ?だから俺は不二先輩を愛してるんだよ?」
胸元にキスしながら越前が囁く。
口だけの言葉だって分かってる。
それでもいい。
すがりたい。
「うん・・・」
そっと両目を閉じて、越前の背中に手を回した。
今度は閉ざされた両目から涙が零れ落ちた。
そして僕は全身を越前に預けた
END
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