レトロラヴァーズ




カタカタカタ・・・
映写機の回る音が静かに響く、少し黴臭い映画館。
エンドロールはもう20分も前に終わってしまった。
それでもオレが席を立たないのは隣の海堂が心地よい寝息を立ててすやすやと眠りについてるからだ。

起きているときは決してオレに触れないどころかオレから海堂に触れただけで
拳が飛んでくるあの海堂がオレの肩に頭をもたれぐっすりと眠っている。


漆黒のサラサラした髪が肩にかかり、サラリと流れて上腕にもかかる。
その髪の流れを見てるだけでも十分に嬉しい。
いつもはキツイ視線を投げかける大きな瞳は閉ざされ、その代わりに
無邪気というか愛らしいというか、長い睫毛が閉ざされた瞼を縁取っている。



確かに、こんな映画選んだオレが悪いんだけどね。
その笑顔可愛さにククっと笑いが込み上げてくる。



感情で動く海堂にはつまらなかったであろうドキュメンタリーにも似たマイナーな映画。
派手なアクションも、赤面したくなるようなラブシーンもなにもない、
ただの淡々とした映画。
海堂が眠ってしまったのなんておそらく映画開始20分の頃だ。
コトリ、と肩に重みが圧し掛かった。
ふとそちらを見ると海堂が幼児のような寝息をたてて眠りこんでいた。



可愛いなあ
そっと眠り姫さながら悪戯心でキスをしてみようとそっと海堂の顔を覗き込む。
「ん・・・」


カクリ


ちょっとショックだった。
オレが顔を覗き込んだ瞬間、寝返りを打つかのごとく海堂はオレの肩から逃げ、
椅子に身を任せてまたもや眠りについてしまった。
その仕草の可愛さにまたオレは一人笑みを零す。


そして今度こそ、と海堂の唇にそっと忍び寄る。
あと5センチ、あと3センチ、あと・・・
鼻の隣をすっとすり抜けた瞬間。
カツン
オレの眼鏡が海堂の鼻筋にぶつかってしまった・・・。



「うわあああ!!」


バシン!!



二人並んで映画館を出たオレの頬には赤い掌の痕。
あと1センチってところで海堂がぱっちり目を覚ました。
これほどまでに自分の眼鏡を憎んだことはない。



「ほっぺ痛いんですけど」
「自業自得だ!!人が寝ている間に何しようってんだよオマエは!!」
「お姫様にキッス」
「バカか!!」
耳まで赤くして怒らなくてもいいじゃない・・・。
それともその耳の赤さは照れているのかな?
そう思ったら本日何度目だろうか、また自然に笑いが込み上げてきた。
「照れてる?」
素早く振り向いて睨みつけたその顔はほんのり赤く、薔薇色に染まっていた。
「バカ言ってないで、メシ食いに行きますよ、乾先輩」
さっさと早足で海堂は歩いていく。
その速度は照れているときの速度。決して腹が減って急ぐときの速さじゃない。
「ハイハイ」
気だるそうに答えて海堂の後についていく。
「乾先輩のおごりっすよ」
「はあ!?なんで!?」
「オレに変なことしようとしたから」
「じゃあ今度、フルコース奢るからイイコトさせてよ」
「!!」


真っ赤になって立ちすくむ海堂を見たらまた笑いが込み上げてきた。



耳どころか首まで赤くなりそうなお姫様。
一緒にいるといつでも自然に笑みがこぼれてきてしまうよ。




END



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