馨る華





初めて不二の瞳を間近で見たのはそう、あのとき。
初めて二人で帰ったあの月夜。



櫻の季節も終わり、街全体があの薄紅色から目が覚めるような新緑へと向かい始める
ちょうど中途半端な時期。
その時期に狂ったように咲き乱れ、優しくそして甘い香りを身にまとう華がある。



薄い紫色、項垂れるように枝からぶら下がり人々を誘惑するような華を咲かす。
日中の陽の中でも艶かしいその華は、夜の月明かりの下でいっそう魅力を増すのだと知った。




「オマエと同じ名前だな」
「そうだね、でも僕此処までキレイじゃない。まず第一、漢字が違うよ」
部活も終わり、陽はとっくに暮れ二人を照らす明かりは月明かりと街頭だけ。
「おもしろいこと言うんだね、手塚って」
くすくすと口元に手を寄せ、静かに不二が笑む。
「そんなタイプに見えないのにね」
見上げられた薄青の硝子のような瞳は、背後で咲き乱れる薄紫の華々を其処に宿し、
言葉にならない妖艶さを浮き上がらせていた。
「案外、おもしろいんだね」
再び此方を見たその瞳の無意識的誘惑に囚われる。
囚われた自分のは代わりに、とオレは不二の唇を捕える。






甘い、甘い、目が眩み、このまま異次元に連れて行かれそうな。
むせかえる程の甘く、幻惑的な香りの中。



半ば強引に奪った唇の感触と
驚愕のあまり開かれたままの不二の蒼とも紫とも言いがたい瞳とを
オレは未だに忘れない。






長い口づけの後に頬を赤らめ、唇を押さえたままの不二がその瞳で語った。
『何故?』





華の香りに酔ったのだろう。オマエと同じ名前の。
オマエに似たひどく誘惑的な華の香りに。





END