水鏡




雨、一滴。
足元の水溜りに音もなく堕ちる。
僕の姿も其処に映る街の景色もゆらりと揺れて醜く歪む。






今の僕の姿みたい。






手塚がいない寂しさを変わりの何かで紛らわすため。
相手は誰でもよかったと言ってしまえば其れまでだが其れは決して否定できない真実であり
また紛れもない事実である。



小さな子どものように「行かないで」って縋れるだけの素直さがあればまだ救われたのかもしれない。
けれどそれはプライドという名の意地が許しはしてくれなかった。
一言の別れも告げず、視線も合わせず。
ただ、踵を返した。
手塚から、そして僕自身から。





「バカみたい」
首筋につけられた口付けの痕も、誰かの背中に残してきた爪痕も。
そして己自身さえも。
全てがバカらしく、そして汚らしく。





雨、一滴。
頬に堕ちて虚空を仰ぐ。
涙、一滴。
頬に堕ちて地に這い蹲る。




水溜りには歪んだ僕の姿。
歪な街の姿。
「みんな夢なら覚めるのに」
自分が映る世界も。
手塚がいない現実も。
そして何より穢れた自分も。





涙、一滴。
音もなく足元に堕ちる。
今の僕の躯の中で唯一美しい
涙、一滴。
ゆうるり堕ちて、また自分を歪ませる。











END











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