「鬼さん此方手の鳴る方へ」
子供たちの声が聞こえる。
はしゃぎ回る、多少耳障りなその声。




沈み行く太陽が、夜空と不気味なグラデーションを描き出す逢魔ヶ刻。
牢獄のような窓枠から差し込む橙色の光が貴方の色素の薄いその髪を
金色に染め上げる。



「どうないしたん?」
ぼんやりと嬌声を上げる子供たちを見つめる跡部に声をかけた。
「なんでもねえよ」
瞳は子供を見たまま、眼すら此方に向けずに彼は言い放った。
夜が運んでくる空気のように冷たい声で。





「鬼さん此方手の鳴る方へ」
小さな頃に近所の同年代の子供と遊んだ、その遊び。
「侑士は如何して鬼にならへんの」
「ずるい」
鬼にならなかったのではない。
誰も捕まえられなかった、ただ其れだけ。
小さな頃から卒なく何事もこなせたこの身を自慢とは思えど疎んだときなど一度もなく。
「俺が鬼になってもお前等すぐに捕まえられてしまうわ」
不敵に笑みを浮かべ、奴等に踵を返した。




「付き合ってられへん」




「鬼さん此方手の鳴る方へ」
東京に行く前夜、小さな頃から一緒に居た奴に告白された。
「侑士はいつまでも捕まえられない。まるで終わらない鬼ごっこみたいや」
やんわり断った俺に彼女はそう一言呟いた。




此処、京都には昔の記憶が染み付いている。




捕まえられないわけではない。
捕まえてくれる鬼がいない。
「鬼さん、此方手の鳴る方へ」










煌く汗が滴るその顎が艶かしいと思った。
光の輝きのように煌くその髪が美しいと思った。
獲物を狙うような眼で人の内面までも抉る視線を紡ぐその蒼い眼が魅力的だと思った。
何より、彼の内側からの美しさに捉えられた。
ストイックに、何処までも勝利に拘る彼の姿勢。
今迄の自分に無い、その直向な美しさ。






鬼に心を奪われた。
捕まえられた餌食。



鬼に喰われる前に、
自らを失くす前に、
鬼を、喰らう。











死装束のような白い浴衣から、白い足がスラリと覗く。
「景吾・・・」
「寄るな」
日が暮れ、子供の声が消えた後も、窓枠に頬杖をついて
京の町を見下ろしている。
首筋には紅い傷痕が残っている。
「景吾・・・」
その痕をより深く、紅く。





「お前も昔、あの餓鬼共みたいに遊んでたのか?」
俺の知らない侑士の住む町、京都。
ふわり、と意味深な、しかし何故か今にも泣きそうな笑みを向ける。
「やっとこっち向いた」








鬼さん、此方手の鳴る方へ。