帰巣本能
魚は川へ、鳥は巣へ、かぐや姫は月へ。
みんなどこかへ帰ってしまった。
じゃあ僕はどこへかえるんだろう・・・?
「不二?」
12センチ上から手塚の声が降ってきた。
見上げると心配そうな顔をしている。
「なんでもないよ」
と僕は微笑み返す。
「そうか?」
まだ心配そうな顔をしてくれている。
そんな手塚の表情を見るたび愛されているのだと思う。
優しい顔をしている手塚を見るたび、愛しいと思う。
「今日ね、理科で帰巣本能ってやってさ。それでちょっと考え事してただけ」
ちょっと首を傾げて自分を見る不二を可愛らしく、例えようもなく愛しいと思う。
「ウチはそこ先週やったぞ」
心の中とは全く反対の態度で手塚は返事をしたが不二はかまわず続ける。
「魚は生まれた川に、蝶や鳥は、親や先祖しか知らないようなところに迷わず帰るじゃない?
だから僕は何処に帰るのかな、って思ってさ」
「人は人に帰るんだ」
「へっ!?」
いつも通り「何言ってるんだ」と言うと思っていた。
こんな返事が返ってくるなんて・・・?
少し不二の心臓がトクンと速く打ち始めた。
「それってどういうこと?」
手塚が何を考えてそんなこと言ったのか、
今自分の心臓の鼓動が早くなったのは何故なのか知りたくて不二は手塚に詰め寄った。
「あ〜つまり・・・何ていうか・・・」
いつもの手塚らしくない煮え切らない言い方をする。
それってどういうこと?またしても不二に鼓動が1テンポ上がった。
「俺は不二の近くにいるのが他の誰といるときよりも安心するし、飾らないでいられる。それが”人は人に帰る”ってことなのではないかと・・・不二?」
不二は手塚の言葉を聞き終わらないうちにうつむいて肩を揺らしていた。
「笑うなら笑え。どうせ俺に似合わないとか思っているのだろう」
手塚は小さな子どものようにそっぽを向いてしまった。
不二は笑っていたのではないのに。
自分の気持ちを手塚が明白にしてくれたこと。
手塚の言う、人が人に帰るということと不二自身の気持ちのシンクロ、
鼓動が早くなったワケ、すべてが瞬時に1本の線につながり、
そのベクトルはすべて手塚に向かっていること。
それが暗闇に差し込む一条の光のようにはっきり分かったのだ。
それが面白いのではなく、嬉しくて不二は涙を零していた。
もちろん手塚に気づく暇を与えないほどの時間だけだったが。
「なるほどね・・・」
そっと手塚の腕に手を回し、腕を組んだ。
「不二!?」
「たまには甘えさせてよ」
きゅっと手塚の腕を掴み、その体温を愛しいと思う。
自分の腕を掴む不二を愛しいと思う。
人は人へ帰るよう、僕は手塚へ、手塚は僕へ。不二は俺へ、俺は不二へ。
輪廻転生のようにループしながら僕らは僕らへ帰っていく。
END
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