かくれんぼ








「不〜二!!」
ひょっこりと木の影からあどけない笑顔を見せて姿を現した彼。
ここのところ毎日現れる彼は
寒くなってきた季節とともに、乾燥してきた空気のせいで
いつもよりも、キラキラと輝く金色の髪を
楽しそうに揺らしながら此方側へと歩み寄ってきた。
「今日は何して遊ぼうか?」
寒い中、長時間待っていたのだろうひんやりと冷たくなった手で僕の手を握り締めた。
「今日もまた来たの?芥川くん」
ちょっとげんなりしつつも、
手が冷たくなるまで待っていた事実には
感動というか執着というか。
不二は嬉しいとも呆れるともとれるような笑みを浮かべ、
慈郎の手をそっとその華奢な手で覆った。
「もし何時もみたいに眠っちゃったらこの季節だもん、風邪ひいちゃうよ?」
自分より7センチも背が高いくせに
自分よりも細く、華奢な手。
その手を、キュっと握り締め軽く、触れるだけのキスを
軽く握られた不二の拳に落とした。
「じゃあさ、寝ないように不二、楽しいことしようよ!」
「え?」
動揺したように不二の顔が困惑の色を見せ、
それと同時にふわり、と頬に赤みが差した。
「ん?何赤くなってるの?不二?」
慈郎は時折、純粋なのか、それとも計算ずくなのかドキっとさせるようなことを平然とした顔でサラリと口に出す。
一瞬、邪な考えが浮かばなかったわけではない。
不二だって、中学3年生、どこにでもいる
思春期の少年なんだから。
「え?べ、別に何も赤くなってないけど?」
得意の笑みを顔に浮かべて慈郎をやんわりとした視線で見つめ返す。
たったあれしきの言葉で赤くなるなんて自分のプライドが許せない。
いつもの、作り笑顔を作り上げ、何一つ動揺してないような顔をしてみせる。
「本当?」
悪戯っ子さながらの、笑みを浮かべ見上げた慈郎はまた唐突に、
そして今度は唇に触れるだけのキスを。
「じゃあさ、かくれんぼしようよ!!」
「え・・・?え〜・・・」
ふいに口付けられた驚愕と、唐突に投げられた提案への驚愕とが入り混じった
半分以上が面倒くさいといわんばかりの不二の声はもう慈朗には届かず、
「不二から鬼ね!!」
と背を向けて走り出してしまった。


全く、僕がここで帰ってしまうかもしれないのに。
というか、帰ってしまおうか。
そう、ふと心に過ぎった。
ここで帰ってしまっても僕には何の非もないし。
何より寒いし。
帰ろう。


そう決め、校門へと足を伸ばした矢先だった。
走り去ったはずの慈朗が何処かからか
「帰ったらダメだよ!」
と慈郎の叫び声が聞こえた。
ああ、もう何でこのコはこんなに鋭いのだろうか。
多少肩をおとし気味に、さっさと見つけて帰ろう、と慈郎を探しに行く。


何でこう、このコは僕のペースを乱すんだろう。
何で僕は、このコに振り回されるんだろう。
何で僕は、このコとかくれんぼしてるんだろう。


「見つけた・・・」
今はもう枯れきった桜の木の幹に寄りかかってまた慈郎は寝息を立てている。
自分からかくれんぼしようって言い出したくせに。
もう、置いて帰ろう。
すっと踵を返したその学ランの裾をふいに掴まれた。
「何ずっとイライラしてんの?不二」
キロリ、と上目使いに、そして射抜くような視線で慈郎は不二を見上げる。
先刻されたキスの動揺とは違う形の動揺が身体を駆け巡り、
体温の急上昇が頬に感じられ、
それを悟られたくないがゆえに不二は慈郎を思い切り睨みつけた。
「座りなよ。時間はそんなに急いで使うものじゃないんだから、ね?」
「離せ。帰る」
いつにないキツイ口調で言葉が口から零れ落ちるのもその動揺の証拠。
「俺と遊ぶのそんなにつまんない?」
別にそんなわけじゃない。
「自分のペースを乱されるのが好きじゃない」
ひんやりとその青い瞳同様、深海のような冷たい視線で慈郎を見つめる。
「たまには、ゆっくりしなよ。不二さ、いっつもかくれんぼで見つからないようにしてる
小さい子みたいだよ。ドキドキして、見つからないといいなって思いながら
誰か見つけてって思ってる」
「何が言いたいの?」
「別に・・・」

きつく裾を握り締めていた手が離され、見上げられていた視線が外される。
急に軽くなった学ランの裾が何故か寂しく感じられ慈郎の隣に腰を下ろした。
「不二?」
「何?」
「なんでもない」
ふわり、と不二の肩に慈朗の軽く柔らかい髪が覆いかぶさる。
「ちょっと寝てもいい?」
「風邪ひかない程度なら」
「うん・・・」
返事をするかしないかのうちに慈朗は夢の世界へと旅立ってしまっていた。
「かくれんぼ、しないの?」
もう既に眠ってることを承知で慈朗に話しかける
「何だか芥川・・・慈郎くんのペースに乗せられちゃったのかなぁ・・・」
ぼんやりと空を見上げて、隣から聞こえる寝息に耳を澄ませていたら
もう、小さなことにイライラしている自分がバカらしくなってきて
大きな溜息と、苦笑ともとれるような笑顔を零した。
「起きたら慈郎くんが鬼の番だからね」






END






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