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AnimalDay
「不二ィ、これどうしよう・・・」
菊丸の困ったような声がテニスコートからすこし離れた茂みの中で小さく発せられた。本来そこにいるはずの動物が横たわっている。
が、不二の答えと言ったら実に非道だった。ちらり、と横目で確認しただけで、
「ほっとけば?」
である。不二はつくづく興味のないものには冷たい性格で、気に入らないことがあったら怒る。ちょっと怒鳴るくらいなら不二の顔上、可愛げあるものなのだが、何せ見えない恐怖のようなものが彼から発せられる為、誰も彼の機嫌を損ねる事はできなかった。そんな事があった日には、最低自分のドリンクには気を配った方がいい。異物混入も真近だ。
とにかくあっさりと答えてその上を悠々と通り過ぎようとしたときだった。
「あー・・・アンタ」
「え?」
と、思った時には遅い。片足首を掴まれたせいで、体が激しくバランスをくずす。
――べしゃ。――
「不二ぃっ!」
「あー・・・大丈夫?」
「・・・大丈夫な訳ないでしょバカ!!そんな事言うくらいなら最初から足を掛けないでよ!!」
したたかに顔を打って、どこを抑えたらいいのか分からないくらい顔面がじんじんと痛む不二はむっくりと体を起こすとものすごい剣幕で怒った。菊丸はとにかく不二が強行手段に出てしまわないか心配で仕方がない。下手をしたら1人のせいで一体何人が犠牲になるか分かったものでない。不二の体の心配をする前に、まず核爆弾が青春学園に投下されないよう見守るしかない。
「掛けてないよ?掴んだだけ」
「「揚げ足を取るな!!」」
菊丸と不二の声が綺麗にハモる。
(英二、とにかく手塚呼んできてよ)
(なんで?)
(校内不法侵入で30周を狙うため。あわよくば彼が抵抗して50周はいくかもしれないよ)
(・・・ふ、不二にしては寛大な措置だね)
(ふふっ、たまには僕も温厚でないとね)
温厚とは言い難いよ、と菊丸は内心ツッコミを入れたが、それを口に出してしまっては自分も巻き添えを食らいそうで怖い。とにかく不二に言われたとおりにコートへ走る。
さて、と不二は再び相手に向き直った。
「どうしてここにいるのかな?芥川慈郎くん」
「えーっと・・・寝てた」
「・・・・・・」
そう、何を隠そう不二に軽く危害を加えた相手は氷帝の通称ジローである。他校の人間が校内にいるのはよくあることだが、他校の生徒が校内で寝ていることはまずない。
眠そうに、まだうとうととしながらジローはじっと不二をみる。
「だって約束したじゃん!」
「え?」
「またテニスしようって。だから来た」
言われてようやく不二の記憶が戻ってくる。そう言えば氷帝戦でジローと対戦した後、よっぽど不二との試合が楽しかったらしくまたやろうと言っていたのを思い出す。
「あー・・・ああ!そのために来たの?」
「いや〜、偵察」
「どっちだよ!」
まるでジローといると誰もがツッコミ役になってしまいそうで怖い。少なくとも不二は本日2度目のツッコミである。
「でもね、偵察行為はまだしてないんでしょ?もうすぐ部活終わるよ」
「まさか!だって俺3時過ぎに来たんだよ?部活ってそんな早く終わんの?」
「何を言ってやがる。今はとうに6時前だっての。何時間寝てんだよ」
と、言いたい所だが不二は我慢した。こんな短時間で3回目のツッコミは避けたい。やがて手塚がやって来た。
「不二」
「ああ、よくやく来たの?」
青学テニス部部長のお出ましだ。同じ中学生とは思えないほどの貫禄ぶりで、とにかく凄い威厳である。
「氷帝、まずはグラウンド20周」
「はぁっ!?何で〜?」
「青学への不法侵入および偵察行為の恐れがあるからだ」
「そんなの嫌に決まってんじゃ・・・」
「30周!」
「何だコイツ・・・」
「・・・40周」
「・・・・・・」
何を言っても手塚は回数を増やす気であるらしく、ジローも倍まで増やされてようやく引き下がった。走らない為にはその場から逃げ出す以外方法はない。
が、納得いかないのは次である。
「そして不二、お前は20周だ」
「・・・え?」
予想だにもしなかった手塚の台詞に、不二はきょとんとしている。無理もない。何故なのか全く分からないからである。
「いつまで休憩を取っている。罰として20周」
それはジローの相手をしていたのだから仕方がない。が、しかしこれでも不二は手塚とテニス部の部員としてすごしてきた仲である。そんな事を言ったらジローのように増やされるに違いない。しぶしぶ承諾して走ろうと立ち上がったときだった。
「いいよ、俺がアンタの分も走るから。その代わり後でテニスしよ?じゃ行ってきます」
「あっ、ちょっ、君!待って!」
「??」
「グラウンド逆方向」
「あー、逆かぁー」
不安で仕方がない・・・。
「不二、まだ帰らないのか?」
校庭の端の花壇の淵に座って、不二はじっとグラウンドを見つめる。それを見て、手塚はその横に立った。
「帰らないよ」
「お前も走ればいいだろう」
そもそも誰がこんな事を仕向けたんだ、そんな目で不二は顔を上げる。ただそんな事を言ってもキリがない。手塚だって、別に走らせたくてそう言ったわけではないのだから。
「言ったよ、僕も走るって。でも走るなって彼が言うんだ。俺がやった事だからって。その後楽しそうに“だからテニスしよう”って言われたら、ね」
そう言って不二もふわりと笑う。ただ、そのジローのひたむきさに好感を持っているから。
「そうか。羨ましいな」
「何が?」
「そうやって何でも率直に言えることだ」
「・・・ふぅん?」
意味がわからず曖昧な返事を返す。と、同時に60周走り終わったらしく、ジローはゴール地点でバタリとその場に寝転んだ。
「あのコまさかここで寝るつもりじゃないよね?」
慌てて不二は走っていく。ドリンクとタオルを持って。
ジローはおいしそうにそれを飲み、不二もその隣でにこにこと笑っている。おおかた青学の猫と氷帝の犬のじゃれあいといった所だ。
「俺には、あの男と同じような真似はできないな」
えんど。
終り。確かジロー不二だったはずが、なんで塚→不二?
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