キミといた放課後
夕暮れ時の教室にはどこか神秘的な香りを感じるよ。
誰もいないし、物音もしない。
聞こえるものはお互いの鼓動の音、それと時を告げる時計の針の音ってとこだな。
そう言ってキミは微笑んだね。
データマンのくせにちょっぴりロマンティックなことを言ってるものだから
キャラじゃないけどな、なんて微笑んだりして。
そんな風にキミと放課後を過ごしたのはどれくらいの期間だったのだろう。
僕らの鼓動と共に時を刻んだ時計がどれくらい針を傾けた期間僕らはここで過ごしたのだろう。
とても長くて、とても短い時間を乾と過ごした気がする。
部活が終わり、皆が帰路へ着こうとしている頃、
僕と乾は示し合わせたように放課後の教室で逢うようになっていた。
お互い約束をしているわけではないのに何故かどちらかが教室にいるとどちらかも来る、
もちろん一緒に放課後に来たことなど1度もなかった。
それでもキミは、僕はいつもココに来ていた。
相手がいないかもしれないのに。
いや、いないかもしれないなんて考えたことないかもしれない。
ココに来れば乾がいる、僕がいる、それが当たり前のようになっていたのだから。
「やぁ、不二」
今日も部活後教室に足を伸ばしたら、窓際の一番後ろの僕の席に座って窓にもたれかかっている乾がいた。
「やっぱりいたね」
カタン、と英二の椅子を乾の隣に持ってきて二人で並んで夕焼けを眺める。
ただ、ぼんやりと窓枠に腕を置いて、顎を乗せて。
ただぼんやりと夕暮れを見る。
交わす言葉はない。
時計の針と街がせわしなく時を刻んでゆくのを僕らは二人、身動きもせず見つめる。
二人の時間だけが止まっているのか、二人を残して時間は動いているのか。
そんなことはどうでもよかった。ただ二人並んで日が沈み、
夜空が舞い降り、太陽の緋色と夜空の濃紺のグラデーションを見つめ、
すっかり空に太陽の気配がなくなってから二人どちらかというわけでもなく立ち上がり帰る。
そんな時間の過ごし方が大好きだった。
またいつものように部活が終わり、日が暮れ、二人で静かに過ごす。
そんなときがずっと続くのだと思っていた。
「やぁ、不二」
いつもと同じく窓辺にいる乾が僕を迎える。
ただいつもと違っていたのは乾が見ていたのは窓の外ではなく、
僕がやってくるであろう教室の入り口だった。
「今日はどうしたの?」
夕日も見ないなんて?何かあったの?そんな言葉を喉に押し込んだ。
窓辺の乾の隣にたどり着いた瞬間、乾からキスが降ってきたから。
「乾?」
「・・・」
乾は目を逸らし、いつも通り窓の外の太陽を見つめ、自分の身体を金色に輝かせていた。
無言で僕も隣に座り、乾の肩にもたれかかった。
「どうして?」
どうしてキスなんてしたの?言葉ではなく瞳で話しかけた。
僕の目を見て乾は金色の光に包まれながら微笑み、そして瞳で語ってくれた。
不二がとても愛しく感じたからさ。と。
一瞬瞳を交わし、乾は席を立った。
「夕暮れ時の教室にはどこか神秘的な香りを感じるよ。
誰もいないし、物音もしない。
聞こえるものはお互いの鼓動の音、それと時を告げる時計の針の音ってとこだな」
と彼に似合わないロマンティズム溢れる一言を残し、
自嘲気味にこんな事言うのは俺のキャラじゃないけどなと言い残して。
これで二人の時間はおしまい。また二人の時計は別の時を刻み始めた。
二人過ごした金色の光に満ちた教室も、二人の時間を刻む鼓動も、
全ては凍てつき夕闇から漆黒へと変わった夜の暗闇へ葬られてしまった。
長いようで短い二人だけの夕暮れ。
またいつか二人、夕日を見つめることはあるの?
乾にされた口づけをふと思い出すように不二は自分の唇に触れ、
二人過ごしたあの時を懐かしく思い、家路についた。
END
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