何時もヘラヘラ笑ってやがるアイツの頭を、そう、後ろを向いてる隙に。
ガツンと一発。
煙草に火を灯すくらい当たり前の動作で。
軽やかに。




G.




ガツンっ
鈍い音がコンクリート打ちっぱなしの部屋に響き渡る。
ぐったりと壁に寄りかかる銀髪の男の口元からは微かに血が滲み出していた。
「誰が出て行っていいって云ったんだよ?」
革靴の踵を鳴らし、ポケットに手をつっこんだまま目の冴えるようなオレンジ色の髪をした男がまだ項垂れたままの銀髪の男に近寄る。
「あ?何か言えよ、亜久津」
靴の底をオレンジ色の頭をした男は亜久津と呼ばれた男の額にこすり付ける。
「オイ、何か云えっつってんだろ?亜久津?」
ニヤニヤと見ているこっちが腹を立ててしまいそうな薄笑いを浮かべなおオレンジ色の頭の男は亜久津の顔を踏みつけにする。

「殺してやる・・・」

やっと開かれた亜久津の口から零れだした言葉は其れ一つ。
「ぜってぇ殺してやるからな、千石・・・」
ギラリと手負いの獣の瞳が此方を睨みつけた。
何かに反応するように千石は亜久津の顔から足をゆっくりと離す。

「殺してやる・・・!!」
眼に殺意を灯して亜久津が部屋に声を響かせる。
足の長さ分だけ離れたところで千石は亜久津を見下す。
そしてその瞬間
耳を塞ぎたくなるような高い声で、突然千石が笑いだし、一頻り笑った後、ひらりと亜久津に背を向けて踵を返した。
「できるもんならやってみれば〜?」
ひらひらと軽やかに手を振り、一歩、また一歩と千石は亜久津から遠ざかっていく。


千石が振り返ったのと亜久津がジーンズからピストルを取り出すのとどちらが早かったのだろうか。
近所一帯に銃声が1つ鳴り響いた。


「あ・・・」
ガタガタと震え、涙を眼に溜めた亜久津が膝をフローリングの床につける。
言葉にならない言葉を喉に詰まらせ、瞳だけを動かす。
そっと温もりを感じた肩に乗っていたのは千石の手。
「本気だったわけ?」
キロリ、と亜久津の視線に千石が視線をあわせようと眼を動かす。
「まあ、もう少しってとこだね」
部屋の入り口のスチールのドアには1つ風穴が開いて煙を上げている。
それをゆっくり眺め、そして亜久津に囁く。
「まだお仕置きが足りないの?」
そっと耳元で囁かれた言葉の意味を今の亜久津が理解できようはずもなく
ただひたすら震え、千石を見つめる。
「そんな眼されても困っちゃうんだけど?」
にへら、と千石が笑いを浮かべる。
「そんなに怖いなら撃たなきゃいいのに。震えてるよ?」
そっと震える亜久津の手からピストルを抜き取り、コートの内ポケットにしまいこむ。
いつも内ポケットに収まっているソレを亜久津が知らぬ間に抜き取っていたらしい。
不敵な笑みを浮かべ千石は亜久津を見下ろす。
「お仕置きは帰ってからだ」
腕時計を抑え千石は足早に駆け出したその瞬間、何かにひっぱられるように立ち止まり
再び亜久津のもとへ歩み寄ってきた。
そしてまだ焦点の定まらない亜久津の唇を自分の唇で塞いだ。
「これで正気に戻るだろ?」
そして千石は足早に部屋を後にした。

一人残された亜久津はペタリと床に座り込み
零れ落ちてきた涙を見つめていた。



軽やかにアイツの頭を撃ち抜いて
そう、通りすがりに。
そうすれば自由は手に入る、
手に入る・・・?


部屋には一人、頭を抱え込む亜久津が残されていた。



END



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