White moon
誰もいないはずの屋上に、風が通り抜けていく。
透き通った空は青く晴れ渡り、雲もまばらにしか見えない。終始街から聞こえてくる車の音に交じって、部活の下校途中である生徒の声が響いていた。楽しげに笑う声は、今しかない幸せな日々をあらわしているかのように。
乾はその重い扉を空けると吹き抜ける空気を吸い込んだ。見れば西の空に太陽が傾きかけている。
「理屈の上手な人が来た」
貯蔵タンクの上から、声が降って来た。くすくす、と控えめに笑うそれはいつもの癖で、声の主が大声で笑っているところなどそう滅多にみたことがない。いつもこうやって浅く声を出すか、ふわりと微笑むだけだ。
空の青を背景に、同色の青い瞳が瞼の奥から覗き込む。
「危ないよ」
それを見上げて乾も口元に笑顔を浮かべた。学年でも1、2を争うほどの長身を彼は持っていたが、その背を持ってしてもタンクの上の不二を見上げずにはいられない。
「ふふっ、いい眺め。乾にはいつも見下されてばかりだもの」
「それは身長だけだろう」
「まあ、ね」
持ってて、と不二は自分の制服の上着を乾の方へ投げた。そしてタンクの上から階段をつたって降りてくる。金茶の長めな髪が風に流されて彼の秀麗な顔を隠した。
「バカは高いところが好きと言うが、例外もあるらしい」
「僕の頭の回転ははやいって言ってくれてるのかな?」
「憎まれ口の上手い人間にバカはいないだろう?」
くつくつと喉を鳴らして笑う乾の声が、風に流されて溶けていく。
「乾といると落ち着く」
微笑んだまま、不二は風の方向へ流されるように歩き出した。
「それは遠まわしの告白かい?」
「そうかも」
脈絡のない会話かもしれない。でもそれが2人にとって楽しいのだ。特別何に虚勢も張らずともよく、気心の知れた相手だからこそどんな冗談も真実も、伝わる。
「俺は、不二が好きだよ」
「僕だって同じだ」
この、言葉だってどこまでが真実か分かったものではない。口にしている自分さえもどう思っているかはっきりと理解するのは難しかった。神のみぞ知る、とはよく言ったものだ。
「どこがいいんだろうな、お互いの」
「うーん、僕にはないものを、乾は持っていることかな」
「身長とか?」
「そうそう」
くすくすと笑うことをやめずに、不二は床に座ると、そのまま寝転んだ。赤に染まってきた空が、彼の頬を朱色に染める。
それを確認するかのように乾も彼の横に座った。空が赤、水色、紫、青のグラデーションになっている。
「でも俺のほうが、きっと不二を好きだよ」
そして乾は不二の唇にキスをする。瞳を開いたまま、不二はそれを受けた。名残惜しいようにそれが離れると、またくすりと笑う。
「いいや、僕だね」
「どうやって証明する?」
「こうやって」
不二は床に身を任せた体を起こした。そのまま乾の胴に上がると今度は不二がキスをする。両腕で支えられていた体は、不二が腕を引っ張った瞬間にバランスを崩して倒れ、2人で床に倒れこむ。
「もし不二が、俺を月の大きさぐらい好きだと言ってくれるならば、俺はそれに対してこの校舎くらいで十分だね」
「あらら、狭い」
「だろう?もう帰るよ」
乾は起き上がる。うん、とだけ答えた不二を背に、そのままドアを開けて出て行った。
残された不二は白く浮き上がる月を見ながらふわりと微笑む。
「なるほどね」
校舎よりも月の方がずっとずっと大きいに決まっている。だがしかし、それは理屈的なもので、視界では月の大きさなど指先程度だ。でも校舎はもっともっと大きい。自分の体1つでは、その大きさなどあらわすことができない。
「僕が思ってるよりもずっと好だって事か。言うね、乾も」
end
うわあ、また20分やっちゃった(笑)乾不二って生まれて初めて書きました。ちゃんと乾不二に見えますか?なんか2人とも遊んでるように見えますよね(笑)