『俺が怖い?』
君が言った。
もし僕が
『そうだよ』
と言ったら、
諦める事を知らない“まだ子供”の君は
引く事ができるの?







恋ニ落チル







あと少し・・・あと2週間。
大丈夫、14日の間、学校には5日も行けばいいだろう。それならば、会う事もない。
周助は2月末日とは言えど、はやくもカレンダーを3月にめくり間違わないよう1日ずつ指を差しながら月日を数えた。
1年、である。
1年の付き合い。自分は今までなんと無駄な時間を過ごしてきたのであろうか。
後輩、先輩としての関係だけではなく、ましてや友情なんていうものは成立するはずはなく、その中にあったのは確かに肉体的なそれだった。
かねてからこの絆に終止符を打たなければならない、そう思っていたのだ。
間違っている。
この恋は、間違っている。
会わなければ会わないほど、その気持ちが増徴していくのが分かった。
怖い、のだ。これ以上自分が引き返せないところに行ってしまうのが怖いのだ。仕掛けも罠もない子供特有の一直線な想いなど、しばらくの間味わったことはなかった。それがより一層、自分の中のブレーキを壊してしまったのかもしれない。今まで本気になどならなかった、誰に対しても。
この容姿に騙される人は少なくない。それを知りながら、興味のあるふりをしては他人を惑わせてきた。自分しか見れないくらいめちゃくちゃにして、絶頂を迎えたときにあっさりと切り捨ててしまう。
『飽きた』
と言う3文字のセリフひとつで。
それがあの子供には効かない。だから怖い。
運のいいことに1年も関係を持ちながら、彼は自分の家さえも知らない。それが幸いだった。推薦でこれからの3年間が約束された身としてはもう学校へなど行かなくても良い。なんという好都合。
その時だった。
―――カチンっ。
窓ガラスに何かがぶつかる音。少しするとまたもう一度、カチン、とそれは音を立てた。
周助はその音に誘われるかのようにブラインドを引く。
いつもと変わらない高級住宅街の風景。
ただ、違うのは・・・。
「えち、ぜ・・・」
途切れ途切れに禁断の名称を口にする。琥珀の大きな瞳をまっすぐに屋内の周助へ向け、睨みつけている。真っ黒の髪が光を吸収して緑色に輝いている。間違いではない、彼本人。それならなぜ、知らないはずの自分の家の前にいる?
窓の下の少年は親指を下に向けると唇を動かした。
“降りてきてよ”と。
周助はため息を浮かべ自室から出る。木製のドアが妙に重く感じられた。
「久しぶり。どうしたの?越前」
リョーマはふうっとため息をついた。そしてドアに手をかけてぐっとそれをさらに大きく開く。
「お邪魔します」
上がれとも言われていないのにリョーマは小柄な体を利用してするりと周助を通り抜けると勝手に床を踏む。
「ちょ・・・えちぜ・・・」
「これ、ケーキね、あげる。リビングってこのドア?」
周助の左手へ一方的にケーキの入っていると思われる箱を握らせると、家主を完全に無視してリビングへと繋がるドアを探し出す。
「あのね、君学校は?今は授業中でしょ」
「アンタだってそうじゃん。家族は?いないの?」
「僕はもう推薦で受かったからいいの。君は勉強があるでしょう?」
「・・・勉強?そうそう、授業がよく分かんないんでセンパイに教えてもらいに来ました。何なら他の勉強も・・・」
「聞け、越前」
声は相変わらず穏やかだが、周助の相貌はそうではなかった。普段見せる笑顔ではなく、射殺さんばかりの視線をリョーマに浴びせる。石をはめ込んだような青い瞳が苛立ちと怒りで異様な輝きを見せる。
「へえ・・・珍しいね。アンタが弟の事以外で怒るなんて」
「君の言い分はどうでもいい。まず、どうしてここが分かった?」
リョーマはまた1つため息をついた。小さい声で周助に“我侭”と呟く。
「菊丸先輩に今日から明日にかけてアンタの誕生日だと聞いて、それから部長に不二先輩に誕生日おめでとうって言いたいからって言って場所を教えてもらいました。次は?」
「いい子だね、それじゃ次。授業が終わってから来てもよかったんじゃない?」
「逃げられたら嫌だから」
「ふふっ、少しは知識も身に付けてるみたいだ。最後に・・・何をしに来た?」
遊んでいるかのように答えていたリョーマの目の色が変わる。とうとう本気で話すようになった目だ。
「アンタこそ。なんで学校来ないの?」
逃がさない、姿勢が語っていた。今度はその質問に、周助がたじろぐ。
「質問の最中だよ」
「俺が質問しちゃいけないって法則でもあんの?」
「話の腰を折るのは感心できないと言っているだけだよ」
「じゃ、後輩のワガママも聞いてください。そしたら俺も言うよ」
周助はふっと口元を歪めた。完全に調子に乗ってしまった子供ほどタチの悪いものはない。ただ、周助とて自負するほどつかみ所のない人間。可愛い後輩の我侭に付き合ってやるほど優しくはない。
「授業が面倒だから。僕はもう受かったから。いちいち朝早く起きるのも面倒だから」
「嘘ばっかり」
「本当だよ?3割は、ね。君はどうなの?僕の誕生日にかこつけて何をしに来たの?」
リョーマは何も言わず周助の傍まで近寄る。そして相手の腕を持ち上げるとお互いの手のひらを合わせた。
「あーあ、身長だけじゃなく手もまだまだ敵わないか。俺もまだまだだね」
「越前?」
「アンタ俺が怖い?嫌われてないことは十分判ってるけど」
合わせた手と手の平。指先を、リョーマはずらすと周助の指の間に己の指を折りこんでいく。
「久しぶりに見た。この繋ぎ方」
そのままその腕を自分の口元へ近づけて、キスをする。軽い音がして、それに合わせるかのように伏せたリョーマの目が上目遣いに周助を見た。ただ見下ろすだけの彼に切なそうな目をして。
「不二先輩、ヤってる時はそんな事言わないし、第一俺を求めてくれてる。それはこの手を見れば判るよ」
つなぎ合わせた手を周助の目の前に持っていくと、リョーマはそれを放した。
何度も何度も好きだと言った。不二先輩が好きだと言った。
そしてその都度頷いて、そして笑ってこうやって手を握り締めてくれた。
「嘘、なの?」
あの時の笑顔も、自分を感じてくれていた瞬間も、その甘い吐息のひとつひとつに自分は騙されていたのだろうか?他の人と同じで、一人で本気になって、それはどちらも同じ気持ちを抱いていると勝手に誤解した自分がバカだったのだろうか?
「・・・い、なわけないじゃない・・・」
「え?」
周助は顔を上げる。そして声を荒げた。
「怖いんだよ、自分が!!」
目じりに、涙が溜まっていくのがわかる。弱くなっていく自分の心が読める。実際、周助は怖かった。
自分が、リョーマをどうしようもないくらいに好きになって、そしてその引力に抗えなくなって。
でも好きで好きで好きで束縛して。
校舎が離れることによって生まれるのは体の距離ではなく、心の距離で。
好きになったまま、この手からすり抜けられることが、怖い。
そう思ってしまう自分が怖い。
「君を好きになっていく自分が怖い・・・!」
「どっちの方が、怖かったと思ってんの・・・?」
「遊ばれてる気がして、1年間辛かったのはどっちの方だと思ってんの!?」















あの人が言った。
『恋に落ちる、自分が怖い』
と。
思い知ればいい。
その数倍、俺のほうが怖かったのだという事を。
その数倍、俺がアンタを好きだったのだという事を。
思い知ればいい。


















end


最初はリョ不二っぽかったんだけどなぁ・・・不二リョっぽくないですか?リョ不二書いたことないので分かりません。9日間連続更新っていいものじゃないですね、駄作続きですよ(笑)