蜜と罪
「そうだね、オレが不二にしてあげれることは何もないんだよ。
そう、それは不二がオレに何もしてあげれないようにね」
穏やかな口調で乾が僕の目を見ながら話す。僕と話すときはいつも乾は屈んで目線を合わせてくれたね。
そんな乾の優しさが今は痛い。
「それでも構わない・・・」
肘のあたりにある乾のジャージの裾をきつく握り締める。
「構わないんだ・・・」
既に何時も通りに20センチ近く上に位置する乾の顔を見上げる。
微かに潤んだ瞳は哀しいくらいに必死な表情で懇願する。
乾は幾度となく横に首を振る。冷たさからじゃない、不二を傷つけたくない、そんな彼なりの優しさからの拒絶。
一瞬の迷いで不二に優しくしてあげても傷付くのは不二だから。それが精一杯の乾なりの思いやり。
「お願い・・・だから・・・っ」
よりきつく握り締められたジャージの裾。握り締めた手は白く震えている。
つい先程まで痛いくらいの視線で見上げてきた瞳は足元を見つめ零れ落ちる涙が地面に湿気を与える。
ハラハラと零れ落ちる涙は長い睫毛を経由し、透ける様な肌を流れ、震える足元に1つ、
また1つ黒々とした染みを作り出す。
「オレには不二を傷つけるようなことはできないよ」
もう、目線もあわせずに乾が言い放つ。
「不二もオレも、もう十分に傷ついている、それだけで十分じゃないか。
これ以上の傷を望んでどうするんだ不二は。」
絹糸が束ねられたような頭上に冷たい雨のような言葉が降り注ぐ。
温かい、優しさに包まれた冷たい言葉。
乾は自分がどんなに傷だらけでも、僕をいつも癒してくれた。
「辛い・・・もう・・・辛くて仕方がない・・・」
震える声を喉から絞りだして、肩を震わせながら不二が呟く。
「愛されない辛さなら乾も分かるでしょう・・・?」
恥ずかしげもなく涙を流した顔を上げ、乾の顔を見つめる。
お願いだから、僕を愛して、と。
身代わりで構わないから僕を抱いて、と。
愛されないこの身体をキミが愛して、と。
全て瞳で懇願して。
「お前自身が傷つくことになるんだぞ、不二」
「構わない・・・」
力なく答えた其れは不二の心の現われだったのかもしれない。
「っ・・・い・・・乾っ」
ギリギリと乾の背中に爪が立てられていく。
ピンク色の蚯蚓腫れが幾筋も乾の背中に刻まれている。
そして不二の身体にも、乾のつけた痕がぼんやりと浮かび上がっている。
「あ・・・っやっ・・・あっ・・・」
不二の見開かれた双眸から一筋流れ出した涙。
シーツを握り締める手に力が入る。
「っあぁっ・・・・・・」
「此れでもオマエは傷付かないのか、不二」
起き上がってカッターシャツを着ながら乾が背中を向けてベッドに横たわる不二を振り返る。
「いいんだ・・・」
力なく答える声は擦れて途切れ途切れにしか聞こえなかった。
「もう、オレに頼るな不二」
そっと不二の頭に手を置く。父親が子どもをあやすように優しく髪を撫でる。
「オマエの気持ちはオレにはないのだから」
「乾の気持ちもね・・・」
不二が云い終わる前に乾は部屋を後にした。
独りベッドで横たわる不二の喉からは嗚咽が漏れる。
「どうして・・・僕を愛してくれないのさ・・・手塚っ・・・」
END
BACK
大好きです。塚不二、乾海上の乾不二。だからまた書いちゃいました。
ちょっと不二が淫らなコですが気にしない方向で(笑)