「嬉しそうな顔してんじゃねえか」
隣をひょこひょこ歩く不二の顔はいつもへばりついたアルカイックスマイルとは違う、なにか幸せの粒が零れ落ちるような微笑みを浮かべてオレの話を聞いていた。
「うん、ちょっとね」



EYES



含みがある答えがなにやらオレに追求して聞いてほしいのの現れなのは長年の、そう幼少の頃からの付き合いで分かっている。この笑顔、口調は最高に嬉しいことがあったということだろうな。こんな笑顔、オレは不二にさせることができない。腹が立つほどの笑顔。
「何があったんだよ?聞いてやってもいいんだぜ?」
「聞きたい〜?」
人をからかうように上目遣いにこっちを見る。いつもは美しく冷たい人形のような印象を受ける不二が、薄っすらと底意地の悪そうな笑みを浮かべてオレを見上げる。
「何だよその顔。腹立つ奴だなお前」
クククとその不二の顔があまりにおかしかったものだったからこっちまで笑いが込み上げてくる。
この顔はあの時、そう、2人出逢った時の顔。悪戯っこの顔。
「昨日ね、裕太が誕生日だからって帰ってきたんだ〜」
「あぁ、ルドルフに行ったんだったな裕太」
「ってキミ、ルドルフと対戦したんでしょ」
「あぁ、弱すぎて忘れてた」
「何ソレ」
屈託の無い微笑みで二人が笑いあうのは何年ぶりのことだろうか。
何時も大会で出会う時はそしらぬふりをして冷たく通りすがるだけの数年を歩んできたのに。
時計が体内で左回りを始めたような気がした。


「それでね、裕太が帰ってきたから姉さんも張り切っちゃってケーキ3ホールも作っちゃってさ」
「由美子サンは裕太大好きだからな」
小さな時を思い出す。ゆみこサンが裕太のために悪戦苦闘してケーキを作っていたのを不二と2人眺めていた。不二は少し寂しそうな眼をして。

こいつはいつもそうだ。
自分のことなど構わずに相手の喜びのために自分の我侭を容赦なく切り捨てる。
自分のことをもっと愛してやればいいのに。
そんな不二に歯がゆさとともに多少なりとも腹立たしさを感じる。
もっと自分を大事にしてやれないのか、と。


「お前どうして笑ってられるんだ」
「え?」
刹那、サファイヤのように煌いていた瞳が曇る。ゆらり、と瞳が揺れる。
「どういうこと?」
一瞬にして瞳は無邪気で純粋な子どもから何時もの手負いの獣になる。
近づくことが許されない、厳しい瞳。
「裕太の誕生日があったってことはお前の誕生日近いんだろ?っつってんだよ」
「え!?」
予期せぬオレの返答に不二の瞳はまた変化する。恥らったその瞳は穢れなき処女のような瞳。
これから汚してくれと望んでいる瞳。
「なんか欲しいものがあるなら言え」
「じゃあ・・・」
眼を伏せて思案する格好になり数十秒考えこむ。
「愛をちょうだい?」
再び見上げた不二の瞳は寒気がするほどの妖艶な色を放っていた。
眩暈がするほどの美しさ。
オレを何年間も捕らえて離さないこの瞳。
「やるよ」
そしてオレは不二の全身に覆いかぶるように、不二の唇を己のそれに重ねた。
すっと閉ざされる不二の瞳。
その時だけ、オレは不二の瞳から解放される。
そして自分の中の獣を解放できる。


「オマエに愛をやるよ、不二」




END



結局跡部様は黒いのか、そして何故こんなにウチの不二は攻めくさくなったのか。謎である。
またしても幼馴染設定・・・。もうこの2人幼馴染決定だよまったく。