BEAST
薄暗い、小汚い部屋に繋がれて何日経ったのだろうか。
もはや身体の感覚も麻痺し、ただ怒りに満ちた瞳が暗がりの中でゆらりと炎を揺らしている。
飼い猫は、飼い主に忠実であるように。
首に首輪を、足には足枷を、手首には手錠を。
ガチャリと部屋の鍵が開く音がした。飼い主が部屋へ侵入してくる。
飼い猫は主人を今にも喉笛に食いつかんばかりの視線で睨みつける。
自由を奪い、日光を奪い、身体を奪った主人に。
「起きたんだ」
そしらぬ顔で鎖につながれた飼い猫を見下ろしたのは、千石清純その人だった。
「テメェに関係ねぇだろ」
敵意をむき出しにした獣は飼い主を未だにらみ続けている。
「そんな目で睨むなよ、亜久津。こえぇじゃねえかよ」
にやりと千石は笑いながら亜久津の顎をクイと持ち上げ、その獣の瞳を見つめた。
「まだ、強気だな」
「フン」
獣は手負いの方が厄介だとはよく言ったものだ。
この手負いの飼い猫は日に日になつくどころか反抗的になってくる。
まぁ、そんなところが気に入っていると言えば気に入ってるのだがいい加減腹も立ってくる。
「あんまり俺をナメるなよ、亜久津。昨日みたいにしてやるか?」
ぞわっと寒気のするような目をして千石は微笑んだ。
絶対服従をしなければ何をされるか分からない、狂気を含んだ視線で飼い主は獣を覗き込む。
「くっ」
恐怖のあまり亜久津は目を逸らした。
昨日のことなど思い出したくもない。
無理矢理身体を繋がれたことなど。
手には手錠、足には足枷のついたなりでどう抵抗できよう?
いくら怪物と呼ばれる彼でも。力なら負けないはずの相手に虐げられ、
両足を開かれ、幾度となく身体に侵入されたときの屈辱。
痛さと恥ずかしさの燃えるような想い。
すべてが今、記憶鮮明に甦り吐き気をともなう頭痛を亜久津に引き起こす。
「気分悪いの?亜久津?」
胃酸の味のする口をようやく開いて言葉を吐き捨てる。
「テメェのせいだろうが・・・!」
「ふ〜ん」
千石はそっと立ち上がり、横たわりながら再び自分を睨み付けてきた飼い猫を
氷のような視線で見下ろし、部屋から出て行った。
ガチャリと再び鍵のかかる音がし、亜久津は独り部屋に取り残された。
「クソ!」
あの視線で見られる度に自分に重なってきたときの
千石の心臓の音、吐息、耳元で囁く小声、手の感触、刻むリズムが鮮明に思い起こされ、
身体の芯が熱くなる。本能で、自らが千石を欲しているのが解かる。
「クソ!!俺をこんな身体にしやがって・・・・・・!」
誰もいない部屋に亜久津の悲痛な叫びが響いた。
気まぐれな飼い猫。
素直じゃない飼い猫。
素直なのは身体だけ・・・。
千石が耳元で囁く声が聞こえる。
手錠の跡は擦れて血が滲んでいる。
手負いの獣はそれでも自らの本当の気持ちを認めまいと抵抗し続ける。
薄暗い部屋の中で絡み合う二つの身体と吐息。
獣は鎖で繋がれている方か?それとも野放しの方か?
END
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