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シャボン玉
シャボン玉 とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた
不二が、いなくなった。別にそれはおかしな事ではない。ただ、今コートから席を外しただけ。それでも良くない予感がした。いや、予感なんかじゃない。今アレがどんな心境か、何を考え何を思い・・・誰を憎んでいるか。
人ごみの中、コート周辺から俺も抜け出し、なるべく人のいないほうへ向かった。
人には何かあった時、人ごみの中で気を紛らわそうとするタイプと誰もいないところで自分ひとりで抱え込もうとする人間がいる。アレは・・・後者だ。
森林の方だろう、そう検討をつけて行ったのだが、案の定そうだった。
「不二」
俺が名前を呼ぶ。不二は背の低く葉の茂った木の下で、身を隠すようにかがんでいた。
「跡部君・・・」
いつもはここで笑顔を作る。たとえ何があっても何でもない、そんな素振りで。
でも今日は違った。違うと言うよりはそんな余裕などなかった。笑う余裕も、その場から立ち上がる気力も、声を発する力までもが、全てが希薄。
「周・・・」
「跡部君。ごめん、ちょっと今誰とも話したくないんだ・・・」
ふい、と目をそむける。今まで、あの男と共にいるようになってから不二の痛々しい姿は何度と無く見てきた。だが今回ばかりは違う。その憤りが伝わってくるようだ。
「周」
近寄って隣に座る。肩に手を伸ばすと、それが小刻みに震えているのかが分かった。手を振り払おうともせず、たったさっき起きた衝撃を何とか受け止めようとしている。
「あ・・・け・・・景・・・ちゃ・・・手塚が・・・」
「ああ」
何とかオレまで顔を向けると、真っ青な顔で腕を掴んだ。血の気が引いているなんてもんじゃない。まるで肉親が死んでしまったかのような怯えよう。
それだけあの男は不二にとって価値あるもので。
「手塚の肩が・・・」
「ああ」
肩、と言った瞬間不二の目じりに涙が溜まりだす。耐えて、耐えて、耐えて。皆の前でこれほどの恐怖を耐えてここまでたどり着いたのだろうか。
「肩、壊れちゃうかも・・・手塚・・・景ちゃ・・・!」
ぽた、ぽた。
1雫、また1雫とゆっくりその頬を伝う。
泣かせてしまった。そんなつもりなどなかったのに。
俺が手塚の肩を壊した。引くものとばかり思っていたんだ。あの男が選手生命に危機をさらしてまで試合をするなどと思わなかった。なんたる誤算。結果、2時間近くも肩に負担がかかるプレイをした手塚の腕は悲鳴をあげた。そして、酷い苦痛であったろう中、崩れ落ちるように膝をついた。
はた、と我に返って不二を見たときの顔。まるで何が起きたのか理解していない、無知な子供の顔で、手塚を見ていた。どうしたの、手塚?と。
でもこうするしかなかったんだ。どんな結果になっても、あの男には勝たなければいけなかったんだ。
「すまな――」
「やめてっ!!」
悲鳴に近い声を上げ、不二はその両手で俺の口を塞ぐ。
「やめて、君は悪くない!」
「周・・」
「分かってるよ、分かってる。これは勝負だ。弱い方が負ける。そうでしょう?」
にっこり、と信じられないほどの痛々しさ。悲痛さ。ここまで俺自身が追い詰めたのか?
「君自身も悪いなんて思ってないはずだ」
確かに。確かに悪い、そうは思ってはいない。ただ、誰が謝らずにいられよう?こんな悲痛な不二の前で。
どうしても勝たなければいけなかった。それはただ部活のテニスという生易しいものではなく、真剣勝負だ。
オレとあの男で決着をつけなければいけなかった。
見ただろう、周。
お前が今最も愛している人間は俺よりも弱い。俺よりも価値が無い。結果はどうあれ怪我をしてしまったのだから。そんな人間に、俺がみすみすお前を渡せると思っているのか?
それを証明するための真剣勝負。俺は不二に思い知らせる為。手塚は不二を俺に奪われないようにするため。だから。
悪いなどとは思っていない。だが・・・
「周、悪かった」
「やめてってば!!」
後から後から、その涙はさっきと比にはならないほど伝う。ただ、今の俺にはそれをぬぐう権利は生憎持ち合わせていなかった。俺が、追い込んだのだから。
「景ちゃんは悪くない!キミが悪いと認めたら、僕もそれを認めたら、僕は君を恨んでしまう!!」
ポタ、ポタ、ポタ・・・流れる、大粒の涙。
人魚の涙は零れ落ちた瞬間、真珠になるという。逆に不二の涙は小刀のようだ。
1つそれが零れ落ちるたびに、思いもかけず俺の心がえぐられる。
「もしかしたら、手塚はもうラケットがもてないかもしれない、彼の一等好きなものが消えてしまったかもしれない!」
そして不二は、ぐい、と己の腕を引っ張った。
「僕のこの左腕を彼にあげて、それで彼の腕が治るなら今すぐにでも切り落とすのに、それもムダなことで・・・どうしてあげたらいいの!?僕は何もできない役立たずなの!?」
「周・・・」
その細い体を抱き寄せる。それくらいしか出来なかった。抱きしめて、ここで泣かせる事しか今の俺にはかなわなかった。
ただ、なんとか落ち着かせて、そして今は手塚の元に帰してやるしか、それしか思い浮かばない。いや、他にも手がある。それは分かっている。例えば今ここで『手塚は敗者だ』といって現実を突きつける事も出来る。
それほどまでに貪欲で残酷な人間だったらどんなによかっただろう・・・運の悪い事に、それを不二に持ち合わせるほど、俺は生半可にコイツを想ってはいない。もっと、もっと純粋に、ただ、本当に・・・
「不二、今ここで泣け。泣いて、今すぐ手塚の元に戻れよ。お前を待ってるかもしれねえだろ」
「でも・・・」
「それくらいなら、きっと今のお前にもしてやれるだろうよ。違うか?」
「うん・・・」
不二の目の色が変わる。ああ、俺の知っている不二だ。気の強い、いつもの不二だ。
「行けよ」
「うん」
ぐっと涙をぬぐうと、またいつもの作り笑いをした。
大嫌いなはずのその笑顔を見て、こんなに安心するとか。
結局あの男の一番を奪っても、周をこの手に戻る事はできないのだろうか。
何のための、試合か・・・
「シャボン玉 消えた 飛ばずに消えた
うまれてすぐに こわれて消えた・・・か・・・」
風 風 吹くな
シャボン玉 とばそ
end
探偵ナイトスクープが始まるまでに書き上げる事が出来ました!(くだらねー・・・)よかった。
今日(9月21日)手塚の腕が壊れました。来週選手生命がどうなったのかわかります。
それからこれはアップしようと思っているので、みなさんの目に触れているのは来月でしょうね。
今後どうなるもかは知りませんが、手塚には怪我をしても是非試合して勝って欲しいです。
そして速攻病院へ行って、なんとか無事だという結果を貰って欲しいです。
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