空気とアナタと自分の関係



いつも隣にいた。普段はウザイだけだった。
でも振り向いてアナタがいたらひどく安心した。


「今日、乾風邪で休んだらしいよ〜。
野菜汁とか飲んでたら風邪ひかなそうなのにね〜」
「確かにね。まぁ、乾も人間だってことなんじゃない?」
部室で菊丸先輩と不二先輩が話しているのを耳にはさんだ。
ほっとしたのとがっかりしたのが二分の一の自分に驚いた。
『なんで俺がアイツがいないからってがっかりしなきゃなんねぇんだよ』
ふしゅ〜と1つ溜息をついてコートに出て行った。

今日はアイツがいない。だから途中で声をかけられることも、
視線を感じることもなく練習できるはずだったのだ。
なのに、なにか物足りなくて。
振り向いたときに誰もいない空間がやけに広くて。
アナタのいない風景がどこか寂しくて。
アナタのいないこの場所はあまりに体感温度が低くて。



『なんなんだよ、コレ!?』



自覚症状のないまま薫の気持ちは加速していく。
乾へと。



「あれ!?乾どうしたの!?部活きてたの!?」
部活後部室に着替えに帰り扉を開いた瞬間乾先輩がベンチに座って
部日誌とノートに書き込みをしていたのだ。
「やあ、英二。いや、病院帰りに寄っただけだよ。
バス時間まで少しあったからね。座りたかったしさ」
「へぇ〜やっぱ乾でも風邪ひくんだね〜」
「英二はひかないんだろ?」
「うん!!ってにゃんで?」
「何とかは風邪ひかないって言うからね」
「にゃんだと〜!!」
菊丸先輩よ乾先輩のやりとりをぼんやりと眺めていたら急に乾先輩がこっちを向いた。
とっさのことだったので薫は目を逸らす時間もなく、
ばっちり乾と目が合った。
「なんか用かな?」
クスクスと乾が笑いながら聞いてくる。
乾には薫が用なんてなく、ただぼんやりと乾と英二を見ていたことなどお見通しだったのだが、
薫がどんな反応を示すのか見たくてわざと聞いたのだ。
予測どおり薫は真っ赤になって
「なんでもないッスよ!」
と背中を向けて着替え始めた。
そんな分かりやすい薫が可愛らしくてたまらない。
バス時間まで時間があってなんて嘘。バスなんて10分おきにでている。
ただ、薫を見たかった。それだけで足は勝手に学校に向かっていた。



薫が着替え終わり、部室を出るのを乾は目の端で確認し10秒後に自分も部室を出た。
あたかもバス時間が迫っているかのように。
「海堂!!」
少し前を歩いていた薫を呼び止め、乾は駆け寄った。
「途中まで一緒に帰らないか?」
「勝手にしろよ」
今日の海堂は何時になく機嫌が悪い。
なんだろう。そんなのデータにはない。
気になったらとことん突き詰めたい乾の性分が動き出した。
「なんかあったのか、海堂?」
「なんでもないッスよ・・・」
といいつつも海堂は乾の方を見ようとしてくれない。
その原因がどうしようもなく乾は気になり、何度も薫に尋ねた。
さすがの薫もしつこい乾の質問攻撃に耐えかねて重い口を開いた。
「乾先輩、今日いなかったじゃないスか。それでなんか、
なんて言っていいのか分からないんですけど・・・
なんかこう、物足りないって言うか・・・。なんか空気が違うっていうか・・・」
薫は言葉を慎重に選び話している。
それがまた、かわいらしい。
乾は抱きつきたい衝動を抑えながら薫を見ていた。
「そう、なんかいつもあるもの。空気がない、そんな感じがしたんスよ」
と乾を薫が見上げた途端、乾からの口付けが舞い降りてきた。
「なにするんスか!?」
動揺で薫は真っ赤になり乾を凝視してた。
「いや、かわいいな、と思ってさ。あ、バスが来た。じゃ、風邪うつしたらごめんね〜」
とさっさと乾はバスに乗り込んでしまった。



突然のキスに薫は動揺していたが、感じていたのは嫌悪感ではないナニかだった。
そのナニかの正体を薫は知らない。
ただ薫にわかったのは乾は自分にとって空気みたいなもの。
ないと生きていけない、
でも普段はそのありがたみも全て忘れられ在るのが当たり前なもの。
その大切さに気づいたとき、薫は乾への自分の気持ちに気づくだろう。
でもそれは別のお話・・・



END



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