アイノカタチ
「お前、帰らへんの?」
冷たい声が頭上から降り注いだ。
二人で身体を繋げていたときの熱はとっくに冷めてしまったような、絶対零度の冷ややかな声だった。
いつもそうだ。行為の後の忍足はいつも冷たい。
早くいなくなってくれと言わんばかりだ。
自分などただ遊ばれているのだと宣言されているようで酷く屈辱的だ。
忍足が腹立たしくてたまらない。
しかもその上、ついさっきまでそんな奴の下になって自らを預けていたかと思うと、自分自身にまで腹が立ってくる。
キュっと跡部は忍足を睨みつけながら下唇を噛んだ。
「言われなくても帰ってやるよ」
もう一度忍足を睨んで軋むベッドからモソリと立ち上がる。
「・・・っ・・・!!」
腰に激痛を感じた。おそらくは先程忍足に貫かれたときの・・・。
激痛に耐えられず柔らかな音を立てて跡部はベッドに逆戻りした。
「ハハハ、跡部はヤワやな〜!!」
忍足の跡部を馬鹿にしくさったような笑い声はいつになく跡部のカンに触れた。
明らかに憎しみの篭った瞳でうつ伏せのまま今一度忍足を睨みつける。
半身を起こして頬杖を着いていた忍足はニヤニヤと笑いながら跡部を見下ろしている。
その顔が跡部にはまた、気に入らない。
プライドの高い跡部が他人に、いくら自分を抱いたことがある人間だろうと見下されて不機嫌にならないわけない。
うつ伏せで睨みつけたままスッと忍足の腰に手をかけた。
「お?」
忍足はキョトンとした目で跡部の手を見つめる。
スルリと跡部の手は忍足の腰から背中に回り、跡部がそっと抱きついてきた。
「どないしたん?」
今まで跡部から抱きついてきたことない上、
こちらから冷たい言葉を吐けば素直に離れていった跡部が抱きついてきたのだ。
ここで何事かと忍足が動揺しないわけがない。
「跡部?」
抱きついてきて何も言わず、目も合わせない跡部のつむじを見ながら忍足はゆっくり跡部の背中に自分の手をまわす。
「もう1回・・・てワケやないんやろ?」
覗き込んだ腕の中の跡部がニヤリと微笑んだ。
ギリギリギリギリ・・・・・・
「・・・っぅ!!・・・」
今度痛みで声を上げたのは忍足の方だった。
跡部がギリギリと力を込めて背中に爪を立てていたのだ。
「・・・!!」
肉に食い込んだ爪の痕がミミズバレになっているのが判る。
自分で背中に手を触れると少し盛り上がって、指先が触れたその瞬間に激痛が走ったからだ。
「っう〜・・・」
背中に手を当てて痛がる忍足を尻目に跡部はすくっとベッドから立ち上がり
脱ぎ捨てておいた制服のシャツを着始めた。
背後ではまだ忍足がまだ苦痛のうなり声を上げていたが跡部は気にするわけでもなくネクタイを結び、
チラリと忍足の方を見た。
先程まで自分をコケにしていた男が苦しんでいる。
フフと笑いが零れ出ずにはいられなかった。
「貴様がオレをバカにするから悪ぃんだよ」
そう言い残して跡部は部屋から立ち去った。
「うっわ、侑士どうしたのソレ!!」
翌日の部活の前にジャージに着替えていたら後から来た岳人が忍足の背中のミミズバレを見て大声をだした。
忍足の背中に入った幾筋かのピンク色のミミズバレはシャツに触れただけでも激痛が走りそうなくらい膨れていた。
「なぁ、侑士、痛い?触ったら怒る?」
その傷に興味津々な岳人が触れようとそっと指を伸ばす。
パチン!!
忍足が岳人の手を叩き、いつものヘラヘラした目はどこへやら、真剣な目で岳人を睨んでいた。
「なんだよ、そんなに怒ることないじゃんか」
「コレは大事な傷なんや」
プイっと岳人に背を向け、忍足は再びジャージを着込み始めた。
「大事な傷〜?」
岳人が怪訝そうな目で忍足を見ていると、跡部が部室に入ってきた。
「コレはな、オレの大事な猫が初めて飼い主に反抗した傷やねん。記念みたいなもんなんや。
もうアレやな、反抗されるのも快感いうか、余計愛しいわ」
「侑士、ソレ、マゾとか言うんじゃねえの?」
ひきつった顔で岳人が傷を見つめる。
「いじめてるのも楽しいんやけどな」
チラリと忍足が数メートル先で着替えている跡部を見た。
跡部は知らぬふりをしているが耳は真っ赤になっていた。
そう、コレがオレのアイノカタチ。少し歪んだ、表現やけど。
END
BACK