「このまま二人、どこか遠くへ逃げ出そうか」
そう言って虎次郎は僕にすらりと長い腕を差し伸ばした。
その伸ばされた掌を、腕を、肩を視線で辿る。
そして顔に。
眩しい太陽の日差しの中、逆光で薄暗くなったにも関わらず彼は優しく、そして真剣に微笑んでいた。
そっと僕より一回り大きい掌に自分の掌を重ねる。
サワリ、と木々が揺れ、二人の間を涼やかな風が通り過ぎていった。
「行こう」
そっと手を繋ぎ、虎次郎が僕をひっぱるように、僕が虎次郎に連れて行かれるように。
二人、走り出した。
8月31日
「オレ、明日から千葉の学校に行く」
いつも2人、たまに裕太も混ざって遊ぶ社宅の下の公園。
夏休み最後のその日。虎次郎は唐突に、しかし重大な事実を口にした。
「は?」
イマイチ事情が掴めなく、なんとも素っ頓狂な声を上げてしまった。
「だから・・・ウチの父さんがさ、千葉に家建てたらしくてさ・・・それで・・・」
歯切れの悪い虎次郎の言葉にだんだん苛々してくる。
「どうしてそんな大事なこともっと早く言わないのさ」
苛々して。腹が立って。悔しくて。
気づけば大粒の涙を零して僕は虎次郎に食ってかかってた。
「何で急にそういうこと言うの!もっと早くに言ってくれれば!僕だって・・・
僕だっていろいろしてあげれたのに!!」
「周・・・」
バシバシと全身の力を込めて虎次郎の胸を叩く。
痛そうに顔をゆがめて虎次郎は僕を見下ろす。
痛いのは、周助が叩く身体だけじゃないけれど。
「虎次郎のバカ!!オマエは僕と離れてもいいんでしょ!?」
「そんなことない!!」
バッっと虎次郎が周助の手首を捕らえ、自分の方へ引き寄せる。
そして触れるだけのファーストキスを。
「オレだって周のこと大好きだもん、離れたくなんかねえよ!」
周助の手首を掴んだまま、虎次郎が声を荒げる。
「オレだって・・・」
そっと優しく、掴んでいた腕を放し、背中に腕を回す。
「周とずっと一緒にいたいよ」
関東大会、青学対氷帝試合後のコート裏。
二人佇む影がある。
二人とも純日本人のわりには薄い色素の髪の毛を眩しそうに白昼の下に晒していた。
「手塚、九州に行ったんだろ?不二」
「うん、よく知ってるね、佐伯」
「裕太から聞いたからな」
「アハハ。裕太ってば本当おしゃべりだな」
隣にいながら、しかし瞳をあわさず二人は会話を続ける。
「不二・・・」
二人の間をあのときと同じ風が通り抜ける。
「このまま二人、どこか遠くへ逃げ出そうか」
END