White Feather


白い羽根が舞い降りてきそうだよ、不二の滅多に見せないかわいい寝顔に。
俺の寝顔を昔、母さんは「天使みたいだ」って言ってたけど、
きっとそれってこんな風に「イトシイ」って思える寝顔のことなんだろうな。


昼下がりの3年6組。
気だるい空気が教室中を包み込んでいる。
一人、また一人と眠りの世界へと連れて行かれて一番後ろの席の英二の視界はいつになく開けている。
いつもは先頭を切って眠りにつくはずの英二が起きているかというとさっきの時間にぐっすり眠ってしまい、もう眠気など吹っ飛んでしまったからだ。
それともう1つ。
隣の席の不二がかわいらしい寝息をたてて眠りこんでしまっているから。
不二は滅多に授業中に寝てしまうようなことはない。
いつもきちんと起きていて、眠ってしまった英二を起こしてくれたり、
先生にあてられたときにフォローしてくれたりする。
それに普段から他人に隙を見せない不二が学校で眠るなんてめずらしすぎる。


な〜んかあったのかにゃ〜?
不二が進路や部活、はたまた成績のことで悩んでるなんて聞いたことが無い。
ただ英二の野生の勘なるものがピクピクと反応している。
英二は不二が自分から話してくれないことに首を突っ込むのはアレかな、と思い胸にしまえるようなコではない。
気になって気になって仕方がない。
そういや朝も赤い目をしていたね。
じっと頬杖を突きながら不二の寝顔を見つめていたら不二の閉ざされた瞼から一筋キラリと光る涙が零れてきた。


不二・・・?
一粒、また一粒と不二の涙が零れて、不二の頬を伝い涙の跡を残していく。
不二・・・
そっと手を伸ばし、人差し指で涙を拭い取ってあげる。
ひやりと冷たい感触が不二が本当に泣いているのだと英二に実感させ、眠っている不二に勘違いを引き起こさせた。
「・・・。」
不二が寝言を口走った。
教室内には先生の眠気を増殖させそうな解説がお経のように響いてるため、その寝言は誰にも聞かれなかったが。
英二を除いて。


不二の唇から零れた寝言に、英二はきゅっと唇を噛んだ。
どうして?
まだ不二の涙が残っている指で泣きそうになっている自分の目をこすった。
何で・・・?
泣きそうになる自分をじっと制して英二はまた不二を見つめた。
涙をこらえる英二の眉間には皺が寄っている。終わらない自問自答。
どうして不二?どうして俺の名前じゃないの?
涙を拭いてあげたのは俺、天使のような寝顔を見守っているのも俺。
でも不二が呼んだのは・・・?


先生があまりに寝ている者が多いため早々と授業を切り上げ、
クラスのみんなも思い思いに帰り支度をしているが不二はまだ起きない。
溢れ出ていた涙は止まっていたが、まだすやすやと心地よさげに眠っている。
英二はそんな不二の寝顔を見下ろし、白雪姫を王子が起こすようにして、不二を起こした。
もっとも、唇ではなく頬に、だが。
「起きなよ、不二」
そっと耳元に囁くフリをして白雪姫を起こした。
王子は切ない目で白雪姫を見つめている。
寝言であんなに残酷なことを言ったのに。
どうして不二の寝顔はこんなにもイトシイと感じてしまうのだろう。
「ん・・・英二?」
「ホラ、部活行くよ不二!今日こそは一番乗りしてやるんだから!」
さっと踵をかえしてロッカーに二人の荷物を取りに向かった。
「元気だね〜英二は」
大きく伸びながら不二は自分の頬にある冷たい涙の跡に触れ、その涙を拭った跡に気が付いた。
夢の中で涙を拭ってくれたのは彼だった。
でも現実に彼が今眠っていた僕の涙を拭くことなんてできやしない。
じゃぁ、誰?英二?
背中を向けてさっさと歩く英二の背中に不二は疑問符を投げかけた。
「ねぇ、英二。僕、寝てたときなんか言ってた?」
「にゃ〜んも!さ、早く行こう!」


「て づ か」
不二が見た夢の中にはたしかに昨日喧嘩した手塚がでてきて、僕が流した涙を掬い取ってくれていた。
夢の中で僕は泣きながら手塚の名を呼んだ気がする。


「英二、ウソついてないよね?」
「そんにゃ必要にゃ〜いじゃん」
よく考えれば天使の寝顔を見たのも、
目覚めのキスをしたのも手塚より俺の方が先なんじゃないかと英二は内心嬉しくなってきた。


白い羽根がふわふわ舞い降りてくるのは天使が堕ちてきたから。
天使を一人堕とした快感に英二は喜び、そしてもう天上になんか返してやる気はない。

不二は俺の。手塚になんか渡してあげないっ。


END


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